書いた人:湖柳小凪
まったく、小学生は最高だぜ!!
(※)本ブログの内容は全て湖柳個人の見解です。必ずしも会の総意ではなく、ましてや京大きらら同好会の会員全員がロリコンと言うわけではないので、その点はご留意いただけますと幸いです。
1. 序論 ~近年におけるライトノベル原作アニメの概況と蒼山サグ先生について~
ごきげんよう、湖柳小凪です。
近年の中でも特に「「「熱い」」」2024年夏クールアニメも遂に終わってしまいましたね。皆さんはどの作品がお気に入りだったでしょうか。ライトノベル好きな湖柳的には、ライトノベル原作アニメが豊作だったことが特に印象的でした。毎週追いかけるのが大変ながらもめちゃくちゃ楽しい3か月間でした。
最近でもライトノベル原作アニメが1クールで十数本あるクールは珍しいわけではないのですが、やはりそのような場合でも「異世界転生」「悪役令嬢」といった、いわゆる「なろう系」と呼ばれる、web小説投稿サイト発の作品が半分以上を占めることが殆どでした。しかし、2024年夏クールのは一味違います。単にライトノベル原作アニメが多かったというだけではなく、その半分近くが「web小説投稿サイト発ではない」という点でしょう。
最終的に今期の覇権アニメに躍り出た『負けヒロインが多すぎる!』は小学館のライトノベル新人賞であるガガガ大賞を受賞したラブコメ(?)作品ですし、原作は電撃文庫から刊行されている『恋は双子で割り切れない』も、web発ではありません。原作がMF文庫Jから刊行されている『義妹生活』は、もともとYoutube漫画から始まったものノベライズですので若干経緯は特殊ですが、web小説投稿サイト系とはやはり一線を画する現実世界ラブコメと言えるでしょう。つまり今期はいわゆる「なろう系」っぽいというよりはゼロ年代10年代のライトノベルで描かれていた昔懐かしい現実世界ラブコメが奇跡的に舞い戻ってきたクールとも言えたのです。
ただ、今期のライトノベル原作アニメのトピックはそれだけではありません。『VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた』は今やカクヨムの覇権ジャンルとなった配信系・及びダンジョン配信系の祖といえる作品です。序盤でその作画クオリティの高さからオタクの話題をかっさらっていった『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』は2023年冬クールにアニメ化された『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』と並んで、web小説投稿サイト「小説家になろう」発の甘々現実世界ラブコメの双璧と言えるでしょう。今期はそのような異世界要素を含まないweb小説発の作品も放送され、web小説発のアニメの新たなる可能性について考える機会を与えてくれるクールでもありました。
もちろん異世界・転生・魔法・主人公最強と言った要素を含む「なろう系」も、今期は数が比較的少ないとは言え『転生したらスライムだった件』3期後半クールを筆頭に、粒ぞろいでした。更に更に、昔懐かしいライトノベルシリーズの続編タイトルだと『〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズン』が前作『続・終物語』から6年の時を経て、待望のアニメ化を果たしました。
このように、昔懐かしい雰囲気を感じさせる作品からweb小説発の作品群の最前線まで、新旧織り交じったバラエティ豊かなラインナップが2024年夏クールの特色だったといえるでしょう。
――――――――――――と、いきなりオタク特有の早口でライトノベル原作アニメの話をまくしたてられて、「読みに来るブログ、間違えたかな……」と不安になったそこのあなた! 安心してください、これから少しずつきららの話に戻していきます。
ここまで1500字近く使って語ってきたように、私はライトノベル原作アニメが大好きです。そんな私が特に好きなライトノベル及びそのアニメ化作品に『ロウきゅーぶ!』という作品があります。
この作品は第15回電撃大賞・銀賞を受賞した作品で、2011年と2013年に project No.9*1の手によってアニメ化されました。
あらすじとしては色々あって高校のバスケ部の活動が休止となってしまった男子高校生の主人公がひょんなことから弱小女子ミニバスケットボールチームの監督を務めることになってしまう……というストーリーです。この作品は小学生のヒロインが非常に可愛らしく描かれているというのも魅力的なのですが、それと同じくらい、バスケの試合シーンは迫真かつ感動的に描かれ、私はアニメを2回見て2回ともボロ泣きしてしまいました。そして今や、『ロウきゅーぶ!』を生み出してくださった蒼山サグ先生は私が最も意識するクリエイターさんの一人です。
そしてそれは2021年の春のこと。『ロウきゅーぶ!』によって まんまとロリコンになった 脳を焼かれた私の元にとんでもないニュースが舞い込んできました。なんと、あの蒼山サグ先生が「まんがタイムきららフォワード」に漫画原作として登場することになったのです!!!!!
これは『ロウきゅーぶ!』のファンとして、そしてきらら好きとして全力で推さざるを得ないですよね☆
と、いうことで前座がめちゃくちゃ長くなりましたが、この記事ではあの蒼山サグ先生が原作者として世に送り出した『すぱいしーでいず!』について、2024年夏アニメに負けないくらい熱く、そしてカレーに負けないように辛く(?)、語っていきたいと思います。もしまだお読みになっていない方がいましたら、この記事が新たな素敵な作品と皆さんの出会いの架け橋になれたら嬉しいです。
2. 作品情報
作品名:『すぱいしーでいず!』
作者:原作・蒼山サグ先生/作画・きんつば先生/料理監修・伊藤雄一
掲載誌:「まんがタイムきららフォワード」
掲載期間:2021年8月号 - 2023年8月号
巻数:全3巻
COMIC FUZリンク:すぱいしーでいず! 1巻 (comic-fuz.com) (単話掲載はなし)
3. あらすじ
潮風とスパイス香る物語。都会育ちのお嬢様、すてらが伊豆大島にやって来た!そこで出会った、すてらと同い年、小学5年生のあい・なつみ・こずえ。この3人はカレー屋さんを開店しようと企んでいて…。
(以上、芳文社公式サイト(すぱいしーでいず!│漫画の殿堂・芳文社 (houbunsha.co.jp))から引用)
4. 「きらららしさ」とは何か論争における一考察 ~『すばいしーでいず!』を題材として~
ここまで蒼山サグ先生が「きらら」で連載することに対して読む前からいかに期待していたかを語ってきましたが、実際に『すぱいしーでいず!』を読む直前まで、私は一抹の不安を抱えていました。その不安は「蒼山サグ先生の作品の個性が私の考える「きらららしさ」にうまくマッチするかどうか」というもの。『すぱいしーでいず!』を読むまで、私の考えでは蒼山サグ先生の作品の個性・特色は以下の2点だと考えていました。
①小学生の複数のヒロインを可愛らしく書くこと
②時にはシリアスなチーム間対立や人間関係も描き、心を揺さぶるストーリーを緩急付けて書くこと。
このうち、②の点が私の考えるきらら像とはうまく合致しませんでした。私は老害と言うこともあり、きららにはどうしても「和やか」「癒される」と言った要素を求めてしまい、蒼山サグ先生の心を揺さぶってくるシリアスな展開は「きらららしさ」とはむしろ対極にあるのではないかと思ってしまった*2のです。
しかしそのような不安は1巻を一読した直後に吹き飛びました。蒼山サグ先生はある意味、誰よりも「きらららしさ」を「理解って」らっしゃったのです。本作は蒼山サグ先生の他の作品と比較しても、本作のキャラクターは全員かなりマイルドなキャラ設定になされており、そこには怖がりで人見知りな主人公・すてらを伊豆大島のみんなが温かく迎え入れる、「優しい世界」がそこには広がっていました。それは『まちカドまぞく』『ぼっち・ざ・ろっく!』以降、フォワード以外でも綿密なストーリーやかわいかったり優しいだけではいられない側面を描く作品が増えてきた昨今では逆に珍しいくらいに。
そして、蒼山サグ先生のこれまでの作品だと『ロウきゅーぶ!』だとバスケの試合、『天使の3P!』だとバンド対決、と言ったちょっとした競争要素が物語のハイライトに据えられることが多かったのですが、本作では「島の夏祭りにすてら達がカレーの模擬店を出す」というのが最終的なゴールとなっており、競争要素などはあまりありません。
もちろん美少女同士による手に汗握る真剣勝負からでしか得られない栄養素が確かにありますし、それをきららで描ききった名作もたくさんあります。しかし元々ライトノベル畑の蒼山サグ先生が「まんがタイムきららフォワード」で書く以上、蒼山サグ先生らしさを残しつつ、きららだからこそ書ける作品を書いてくださったことは本当に嬉しかったです。
そしてストーリーを支えるきんつば先生の作画も「萌える」美少女というよりもほんわかとした優しい可愛らしさを感じさせる素晴らしい絵に仕上げてくださっていると思います。このきんつば先生の作画はもっと言えば、他のきらら作品と比較しても珍しいメインキャラクターの殆どが小学生の作品という特徴ともうまくマッチしていると思います*3。
一般的に人は、幼い少女らに優しい感情・慈しみの感情を抱くよう遺伝子にプログラムされているのではないでしょうか。きらら作品の主な主人公である女子中学生・女子高生よりも更に若いキャラクターらが主人公になっているからこそ、他のきらら作品よりも更に優しい作品に仕上げる必要がある。そんな作品の特色をおさえて全体の調和を作り出している作画になっていると思うのです。
5. 傍論 ~その他の魅力~
前項ではストーリー・作画両面から『すぱいしーでいず!』が「きらららしさ」と言う観点で魅力的だという話をしました。その観点に加えてもう3点ほどこの作品の魅力をご紹介します。
①主人公・すてらの魅力と成長
本作の主人公・すてらは家がお金持ちのお嬢様と言う設定がありながらも人見知りな所もあるのも相まってお嬢様特有の取っつきづらさなどはなく、最初から受け入れられやすいキャラクターになっていて、主人公を応援したくなるキャラクターになっていることもまた、本作の魅力です。
そして一部の有識者は近年のきらら作品の主要な構成要素として「主人公の成長」に重点を置いていますが、本作における「すてらの成長」というのも見守っていて微笑ましいところがあります。すてらは最初、父親と別れて一人で伊豆大島に住むことになってしまったことが心細く伊豆大島に引っ越してくることに後ろ向きで、伊豆大島のことを「海の監獄」とすら例えています。
そのすてらのネガティブなイメージは伊豆大島で着いて間もなく出会ったあい・なつめ・こずえとの関わりによってすぐに払拭されるのですが、あいたちと設立した「カレー部」の活動を通じて、もともと怖がりで控えめだったすてらはより積極的に物事をできるように成長していきます。
その成長は「ゆっくりはじまる」ものかもしれません。しかし、のんびりとした伊豆大島の風土で、温かい人たちに見守られながらも1巻の最初と最後、そして3巻通じて着実に成長していくすてらの姿には読者はほっこりとした気持ちになります。そこもまた、本作の見逃せない魅力でしょう。
②「創作カレー」の要素も絡めながら描かれる聖地「伊豆大島」
更に聖地「伊豆大島」の描写もまた、「すぱいしーでいず!」の重要な魅力の1つです。3巻のあとがきで蒼山サグ先生が
リフレッシュ目的で伊豆諸島を旅行した際、大島のゆったりとした空気感にすっかり癒されてこの温かな世界で何か物語ができないかなと思ったのがそもそもの始まりでした。
と『すぱいしーでいず!』の誕生経緯を語っているだけあって、温泉や三原山などの観光名所が登場するなど、本作では伊豆大島が丁寧に描かれています。
加えて、本作の大きな特徴である創作カレーと絡めて大島の魅力が描かれていることが本作ならではで、他の聖地を大切に扱った作品とも「一味」違うところでしょう。本作では各巻に伊豆大島らしさを盛り込んだ創作カレーが登場します。
特に最終巻で島の夏祭りに出店するメニューとしてすてらたちが悩みに悩んだ末に辿り着いた伊豆大島らしさを盛り込んだ創作カレーがどのようなものなのか。それは、皆さんの目で確かめて頂けると嬉しいです。
6. 末語に代えて
以上、簡単ではありますが私のイチオシ完結済みきらら作品の『すぱいしーでいず!』の魅力について語っていきました。
本作は衝撃的な展開が連続するわけではありません。控えめで引っ越しに後ろ向きだった小学生の女の子が温かい友達に囲まれて少しずつ成長していく、王道のきららと言える作品です。でも、そのような王道のきらら作品でしか得られない栄養素がある。そしてそのような栄養が詰まったカレーに、更にカレー要素と伊豆要素というスパイスをひとつまみ。『すぱいしーでいず!』はそんな作品です。
この微笑ましい、心温まる女子小学生の成長譚を読み終えた時。きっと皆さんもミニバスケットボールを題材にした某ライトノベルの台詞を心の中で呟くことになるでしょう。
「まったく、小学生は最高だぜ!!」と。
*1:1期はStudio Blanc.と共同制作。
*2:いうまでもなく、きらら作品、もっと言うと「まんがタイムきららフォワード」掲載作品には『がっこうぐらし!』や『球詠』などがあり、このイメージは実態を正確にとらえているものではなく、筆者個人の独りよがりな幻想ではあります。
*3:主人公が小学生の作品だと他にはなじみ『しょうこセンセイ!』など。この作については次の記事が詳しい。【完結済きらら作品紹介リレーブログ④ 】『しょうこセンセイ!』 - 京大きらら同好会 (hatenadiary.jp)