※前編はこちらから
第四章 馳せサンズ
「ここはどこだ……?」
街に来て一番最初に口にした言葉がそれであった。思い返すと昨年京都に来て以来、関西を出たことがない。京阪神に滋賀を加えた4府県を行ったり来たりしており、東日本には全く行かなかった。しかし一番最初に実感したのは、首都特有の小綺麗さみたいなもののなさだ。街並みは綺麗とは言い難いし、空気も少し淀んでいる。しかしそれがどこか心地よさを感じさせる。
初夏の蒸し暑い空気の中をずんずん進んでいく。歩いてみて初めて分かったが、下北沢は坂が多く、さらに小さな道が入り組んでいる。その小さな道の中に商店が密集しているのだ。進めど進めど喧騒と街明かりが絶えない。特に多かったのはチェーン、個人経営を問わず飲食店だが、それに次いで多かったのは古着屋だ。10分弱に一回は古着屋に遭遇する。もちろん京都ではこんなことはない。帰洛後に調べたところ、どうやら2025年現在時点で下北沢には古着屋が200店舗弱あるそうだ。しかしそれが増えたのもここ数年の話で最近は若者の他にも訪日観光客の来店も多いのだとか。下北沢が闇市から発展してきた、いわば庶民の街という起源も関係しているのかもしれない。あと古着屋だけじゃなくてストリートアートも多い。シャッター、駐車場の壁、さらには電柱、いたるところに書かれた無秩序な図形、文字列を見ているとどこか下北沢らしさを感じる。
本日の宿……じゃなかった、明日のための仮眠をとるインターネットカフェを目指し、夜の下北沢を歩く。ぼざろの聖地が道中にあればいいなぁと思いながら某ネットカフェに歩みを進めていると……
あった。
それも目と鼻の先に。

距離にして某ネットカフェから170m。歩いて3分弱、走れば一分と行ったところだろうか。「海鮮居酒屋 こけら」がある。かなり評判の良い居酒屋らしいが、この場所こそアニメ版第8話「ぼっち・ざ・ろっく!」の終盤で結束バンドの打ち上げが行われた場所なのだ。伊地知虹花のあのタイトル回収が心に深く刻み込まれた視聴者も多かったことだろう。にしてもこんな近いのか……。こう……角を曲がったらあまりにもヌルっと出てきたから心の準備というものが……。
こけらを通り過ぎて某ネカフェに到着。そこそこ漫画が置いてあった。『宇崎ちゃんは遊びたい!』数巻と『よつばと!』の最新刊、そして『ゆるキャン△』数冊を読んで就寝した。我ながら本当に謎すぎるラインナップである。
朝5時、ネカフェより放出。眠い……。9時間弱滞在して、3600円くらいであった。都内はやっぱり高い。学割こそ正義。
「ぼっちのせんりつ!」のサークル入場開始は10時30分。それまで下北沢の街を徘徊する必要がある。
とりあえず最初に行く場所は決めていた。下北沢駅だ。1927年開業、小田急線と京王井の頭線の二路線が乗り入れているこの駅はアニメ版4話に登場した。ぼっちちゃんら結束バンドの4人がアー写撮影の待ち合わせ場所にしていた地だ。実際に来てみると……なんか、少し違う……?

電光掲示板は増えているし、ぼざろ作中ではアーケード下のような雰囲気があったのにその雰囲気が少し減っている気がする。そう、下北沢駅周辺は近年再開発が著しいのである。なんか全体的に小綺麗になっているのだ。利便性も向上しているんだろうし、さっぱりすることで人の交通もしやすくなってるんだろうし……いいことなんだろうけど……うーん。
そして少し場所を変え、今回の旅の目玉ともいえる場所に着いた。タイムズの駐車場の目の前の建造物。そう、あのアー写を撮影した大樹が描かれている壁だ。

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。
実際に眺めてみるとデカい。上の方、よく見るとツタの枝っぽい奴があるのだな。ちょっと前にばっさり切られてしまったらしいがその残滓がかろうじて残っているというわけだ。そして劇中では消されていたが下の方にもびっしりと数々のストリートアートが描かれ、ポール?的な奴には結束バンドメンバーを始めとした大量のサブカル系のシールが貼られている。ちなみにこのタイムズの駐車場を囲むかのようにいくつものストリートアートが建物の壁にびっしりと描かれている。この場所、陳腐な感想だがカオスだ。ロックでとてもいいじゃないか。しかしこの大樹が描かれし壁、先述の再開発の影響か近々取り壊されてしまうそう。駅周辺を歩いてみるとどこもかしこも工事中で再開発がすごい勢いで進んでいるのだと実感させられる。うーん、身勝手な感想だけどこういう古き良きシモキタも残ってほしいんだけどなぁ。
吉野家で朝ごはんを取って閑静な住宅街の方を歩き始める。賑やかな商業地域とは打って変わってものすごく静かだ。下北沢という町が清濁併せ呑む街というのがこういう場所から分かる。どんぐりひろば公園についた。アー写撮影場所探索のさなか、結束バンドメンバーが休憩していた場所だ。郁代とリョウがバインバインしていた謎遊具に乗ってみる。馬?の方は乗り心地が良かった。カタツムリの方は前後につっかえてあまりスムーズには乗れなかった。聖地巡礼ってこういうのがいいんだよ。視覚だけじゃなく、触覚とかの五感で作品を味わえるわけだから。

そしてやってまいりました。下北沢シェルター。ASIAN KUNG-FU GENERATIONがインディーズ時代に精力的に活動し、初のワンマンライブを開いたことで知られる名物ライブハウス。結束バンド一行が拠点とするSTARRYのモデルとして知られ、アニメファンの間でも俄かに知名度が急上昇、ぼざろの聖地という話ならアー写の大樹と並ぶ定番の場所。なのだが……。

看板にはこの通り。ご丁寧に三ヶ国語。確かに「ぼざろ」の人気はすごかったが、聖地巡礼におけるファンのマナーが問題になったことは今も記憶に新しい。公式サイトで注意喚起が発表される程度には騒がれた。しかし聖地巡礼の負の側面というのが、このように可視化されて突きつけられたのは初めてだ。当然だが、アニメの舞台となる街には地域の住民がいることが多い。「オーバーツーリズム」なんて言葉が生まれて久しいが、我々もまさに観光公害の片棒を担いでしまう可能性がある。考えさせられた、というか身につまされた。私もだし、拙文を読んでいる読者諸君におかれましてもマナーの遵守など自省しながら観光は行っていただきたい。
他にもヴィレヴァンが入っている下北沢マルシェとか、虹花が星歌と喧嘩したあとに飛び出していった土管のある空き地とか色々回る。楽しいなァと思いながらも、周囲を見回しても”同業者”と思われる人が少ない。それよりかは子連れのファミリーの数が時間が経つにつれて増えていっている気がする。いかにアングラ文化の街とはいえ、当然家族連れも多いんだな。そりゃ日曜の朝だから当然か。
そうこうブラブラしていると10時半になった。こぎと合流し、会場である北沢タウンホールに入る。ちなみに昨日、筆者が下車したあとの遠征部隊の足取りはというとまず東京に実家があるまっつごーを実家前で下ろした後、じゃすみんとこぎの二人はなんと無料駐車場に車を停め、車中泊をしたそうな。あまりにもパワフル、そして一人だけネカフェ滞在を敢行したことに申し訳なさを感じる。
何事もなく入場し、慣れた手つきで設営を終わらせ、近くのコンビニでお品書きを印刷し、準備を全て終わらせた。開場を待ち望んでいるとふと隣から声をかけられた。「ぼっちのせんりつ!」の主宰であった。はるばる京都より参りましたなどと他愛ない世間話をした後で、思い切って、恐る恐る尋ねてみた。
「あのぉ……今回の参加のいきさつなんですけど……そのぉ……会誌の記事?とかにするっていうのは……?」
「あぁ!全然問題ありませんよ!!」
……驚くほどあっさりとOKサインを貰えたため、こうして駄文をしたためているわけだ。
そうこうしているうちに12時になった。「ぼっちのせんりつ!」ついに開幕である。
……なんか人多くね?
来場者数がめちゃくちゃ多い。最初の1時間でよんこま小町並、下手したらその倍は来ている。聖地開催だからか、イベント会場がそもそも首都圏だからかは分からないが、体感として人が多すぎる。これが「ぼざろ」のコンテンツ力……。頒布数も上場であった。規模感が分からなかったので高を括って全体的に少なめに持ち込んでしまったのが悔やまれた。新刊の表紙は好評であった。大槻ヨヨコと伊地知虹花の同人誌を購入し、売り子をし、雑談をしてたらいつの間にか即売会は終わっていた。
第五章 下北沢グッドバイ
15時半、イベント終了。ここから先は帰路である。え?どこに変えるのかって?
もちろん京都に決まってんだろバカヤロウ!!!
「ぼっちのせんりつ!」の開催日は6月1日の日曜日。もう一度言う。日曜日である。日曜の次に月曜がくるのは世の理。天地がひっくり返っても覆らない。もちろんこの週は幸か不幸か何か特別な行事があるわけではない。平常運転、通常業務。何の変哲もない一週間が左京区吉田本町に鎮座している。今回の遠征メンバーの大半が月曜に授業を抱えており、こぎに至っては大学のアルバイトの初回が9時から入っているため絶対に遅れるわけにはいかない。帰ろう、京都。滞在21時間にして、我々は太陽を追いかけるかのように下北沢を後にした。
筆者、こぎ、まっつごーの3人でじゃすみんの運転する車を待っていた。しかしここで思い出してほしい。我々がいるのは下北沢、総じて道が狭い下北沢である。そしてその狭い路地には居酒屋をはじめとする飲食店が密集している。そして今日、6月1日は日曜日。神が定めし休息日。それはそれは多くの人が、残り少ない週末を楽しむために喫食・喫飲に赴く日。これら3点が何を引き推すか。……我々の対面からじゃすみんの車が、それはそれは注意深く、ゆっくりゆっくりやってきた。じゃすみん曰く、「本当にストレスのかかる運転で気が狂いそうだった。」……ほんとすんまへん……。
諸事情で東京に残らざるをえないまっつごーを再び実家で下ろし、我々三人の大帰宅が幕を開けた。西へ進むこと2時間強、遠征部隊真の目的地その二こと山岡家厚木店についた。入店早々店員から一言。
「お客様、申し訳ございません。ただいま10組待ちとなっておりますがよろしいでしょうか?」
10組待ち!?!?!?!?!?!?
みんな山岡家好きすぎるだろ。しかし背に腹は変えられん。ここで別店舗に向かっても同じくらい待たされるのは必定。決心をし、厚木店に居座ることを決めた。車内で仮眠を決め込みながら待つこと40分、思ったより回転率が高く、早めの入店に成功した。看板メニュー、辛味噌ネギラーメンを賞味する。うまい。不動のうまさだ。味噌のコクと豚骨のうまみに唐辛子のパンチが効いている。山岡家はご存じの通りチェーン店だが、工場から配送された調理済みスープを使っているのではなく、各店舗でそれぞれスープを直炊きしている。だからこそこのクオリティ、だからこそ24時間営業であるのだ。

山岡家で腹ごしらえをすませ、我々はひたすらお喋りしながら高速を走り続けた。車内ではじゃすみん選曲のプレイリストから音楽が流れていた。真っ暗な中の楽しげな行軍、するとこの局が流れ始めた。forfoliumの『Now Loading!!!!』。『NEW GAME!』のEDだ。明日への希望を感じさせる明るい曲調。我々の気分は最高潮に達し、そしてサビに突入した!
「月曜日が街にやってくる 桜舞う電車に飛び乗る」

通り魔に背中を刺されたかのように、我々の希望は順次に絶望へと変わり果てた。社会人となった新卒オタクたちが『NEW GAME!』を純粋に見れなくなるという噂が、生々しい重みを伴って心の底から理解できた。
ところで、この車はどこに向かっているのだろうか。何をバカなことを聞く、京都に決まっているだろう。こう答える読者が大勢であろう。しかし、我々が乗っている車は片道Goなのだ。片道Goの車の返却先店舗は指定されていることが多い。今回の返却先はなんと大阪。明日の昼までに返せばよいのだという。この話を筆者が効いた直後、じゃすみんがこのように話しかけてきた。
じゃ「こぅせーくん、明日ヒマ?」
こぅ「は、はぁ」
じゃ「明日、一人で運転して返しに行くのイヤなんだよね」
こぅ「……ん?」
じゃ「だからさぁ……一緒に大阪来てくれない?」
こぅ「んんんんんん~~~~~~~~~~~~~~???????????????」
36時間前、こぎの不運を笑っていたはずが、いつの間にか笑われる側になっていた。
最終章 解放→苦
6月2日月曜日13時20分。曇天の下で下北沢より生還した私は…。私は……。私は……!
万博公園に来ていた。

万博(2025)ではない。万博(1970)だ。というのも、じゃすみん曰く「途中で下車してくれてもいい」とのことだった。強いていうならどこに行きたいか、と尋ねられた私は万博記念公園内にある国立民族学博物館を挙げた。そこから先は早かった。深夜に京都に着き、翌朝出発し、昼には吹田に連行された。もちろん予定されていた私の月曜2限、3限、4限は全ブッチである。
もうすぐ閉幕する特別展『民具のミカタ博覧会』をとぼとぼと見ながら今回の即売会を振り返った。確かに、晴天の霹靂ともいえる突然の参加決定であったが、ふりかえってみるとうまいものは食べれたし、「ぼざろ」の舞台下北沢の変わりゆく風景、その中でも変わらない、変わってほしくない光景を知れた。「ぼざろ」愛に燃えるイベント参加者たちの熱量も刺激になった。そう考えると……今回の弾丸出展も悪いものではなかった。展示の一つ、共飲するためにいくつもの飲み口がついているウガンダの酒壺を眺めながらしみじみとそう考えた。「廣井きくりがこれ使ったら面白い絵になりそうだな。」などと余計なことを考えながら。
<終…?>
とでも思っていたのか???
真章 そして一年後 ~Re:Re:~
『僕だけがいない街』という漫画を知っているだろうか。タイムリープものという異色のサスペンス屈指の名作である。2016年には結束バンドもカバーしたASIAN KUNG-FU GENERATIONの「Re:Re:」を主題歌としてアニメ化もなされた。

詳しくは本作を見てくれるとよいのだが、本作の主人公、藤沼悟は「再上映」という特殊能力を有している。主人公にとって「よくないこと」が起こるとその数分前に主人公がタイムリープし、その「よくないこと」の原因が取り除かれるまでタイムリープが繰り返されるというものだ。本作は主人公がこの再上映によってある一つの難事件に巻き込まれてしまうというのが大まかな筋書きである。私はアニメ版を見たのだが、ただの他人事・絵空事としてしか感じていなかった。タイムリープなんて起こるわけがない。そう思っていた。……あの瞬間まで。
あのけたたましい下北沢行軍から一年が過ぎようとしている。
2026年3月15日、私とまっつごーは大阪産業創造館にいた。第26回よんこま小町に参加していたからである。80sp程度の四コマ漫画系オンリー即売会は、何事もなく牧歌的に終わるかと思われた。いつも通り頒布をこなし、いつも通りアフターイベントのじゃんけん大会に突入した。流石に去年みたいなことは起こらないだろうと高を括っていた。
……が。
いきなり奇妙な景品が出された。それは5月23日(土)に下北沢で開催される『ぼっち・ざ・ろっく!』オンリー即売会、「第二回下北沢ぼざろ祭~にじかのドラム!」の申込用紙であった。これを視認した瞬間、私の身体は強烈な悪寒に襲われた。
しかもこの申込用紙、何かおかしい。支払い証明の印鑑がすでに主催者によって押されているではないか。そう、この申込用紙を勝ち取ること、それすなわち「ぼっちのせんりつ!」に無料で参加できることを意味するのだ。この事実を知った刹那、猛烈な吐き気を覚える。
主催「それではみなさん」
いやだ、やめろ。
主催「今から」
やめてくれ、本当にお願いだ。
主催「この景品をめぐって」
しかし、私のこのような懇願が届くことはない。
運命とは、げに残酷なのである。
主催「じゃんけん大会を行いたいと思います!!」
再上映が始まった。
絶対に参加したくない。虫の知らせというものがあるとすれば、この瞬間ほどそれをビンビンと感じたことはない。頑なに参加を拒否し続けたのだが、隣のまっつごーから「面白いから行け!!w面白いから行け!!ww」と執拗に言われ続けたためしぶしぶ参加する。
去年と同じく、参加者は京大きら同の2名を含めて7名。確率は単純計算で七分の二。だいたい25%といったところか。ただ、我々は去年も参加している。2年連続でじゃんけんに勝ってしまう確立なんぞたかが知れているはずだ。
そして結果は………
また勝っちゃった……。

京大きら同、奇跡の2年連続下北沢連行確定
去年と同じく勝ったのは筆者だ。大戦犯である。去年と同じ人に同じように同じイベント参加申込書に必要事項を書かされ、よんこま小町は幕を閉じた。

このブログ記事が投稿される数日後、
5月23日(土)の12時から北沢タウンホール2階ホールにて我々京大きらら同好会はイベントに参加する。スペースは金沢八景03だ。
もう一度言おう。
5月23日(土)の12時から北沢タウンホール2階ホール、スペースは金沢八景03である。
京大きら同はこれからどうなるのか……。というか全ての責任を取らされて単身下北沢にカチコミに行く筆者はどうなるのか……。
この波乱の行く末を、ぜひ下北沢で刮目してほしい。
<終>
































