京大きらら同好会

京都大学きらら同好会(3代目)のブログです。

【特別公開】第一回下北沢ぼざろ祭弾丸参戦記ー後編

※前編はこちらから

kukirara3rd.hatenadiary.jp

 

 

 

第四章 馳せサンズ

「ここはどこだ……?」

 

街に来て一番最初に口にした言葉がそれであった。思い返すと昨年京都に来て以来、関西を出たことがない。京阪神に滋賀を加えた4府県を行ったり来たりしており、東日本には全く行かなかった。しかし一番最初に実感したのは、首都特有の小綺麗さみたいなもののなさだ。街並みは綺麗とは言い難いし、空気も少し淀んでいる。しかしそれがどこか心地よさを感じさせる。


初夏の蒸し暑い空気の中をずんずん進んでいく。歩いてみて初めて分かったが、下北沢は坂が多く、さらに小さな道が入り組んでいる。その小さな道の中に商店が密集しているのだ。進めど進めど喧騒と街明かりが絶えない。特に多かったのはチェーン、個人経営を問わず飲食店だが、それに次いで多かったのは古着屋だ。10分弱に一回は古着屋に遭遇する。もちろん京都ではこんなことはない。帰洛後に調べたところ、どうやら2025年現在時点で下北沢には古着屋が200店舗弱あるそうだ。しかしそれが増えたのもここ数年の話で最近は若者の他にも訪日観光客の来店も多いのだとか。下北沢が闇市から発展してきた、いわば庶民の街という起源も関係しているのかもしれない。あと古着屋だけじゃなくてストリートアートも多い。シャッター、駐車場の壁、さらには電柱、いたるところに書かれた無秩序な図形、文字列を見ているとどこか下北沢らしさを感じる。

 

本日の宿……じゃなかった、明日のための仮眠をとるインターネットカフェを目指し、夜の下北沢を歩く。ぼざろの聖地が道中にあればいいなぁと思いながら某ネットカフェに歩みを進めていると……

 

あった。
それも目と鼻の先に。

海鮮居酒屋こけら



距離にして某ネットカフェから170m。歩いて3分弱、走れば一分と行ったところだろうか。「海鮮居酒屋 こけら」がある。かなり評判の良い居酒屋らしいが、この場所こそアニメ版第8話「ぼっち・ざ・ろっく!」の終盤で結束バンドの打ち上げが行われた場所なのだ。伊地知虹花のあのタイトル回収が心に深く刻み込まれた視聴者も多かったことだろう。にしてもこんな近いのか……。こう……角を曲がったらあまりにもヌルっと出てきたから心の準備というものが……。

 

こけらを通り過ぎて某ネカフェに到着。そこそこ漫画が置いてあった。『宇崎ちゃんは遊びたい!』数巻と『よつばと!』の最新刊、そして『ゆるキャン△』数冊を読んで就寝した。我ながら本当に謎すぎるラインナップである。

 


朝5時、ネカフェより放出。眠い……。9時間弱滞在して、3600円くらいであった。都内はやっぱり高い。学割こそ正義。
「ぼっちのせんりつ!」のサークル入場開始は10時30分。それまで下北沢の街を徘徊する必要がある。
とりあえず最初に行く場所は決めていた。下北沢駅だ。1927年開業、小田急線と京王井の頭線の二路線が乗り入れているこの駅はアニメ版4話に登場した。ぼっちちゃんら結束バンドの4人がアー写撮影の待ち合わせ場所にしていた地だ。実際に来てみると……なんか、少し違う……?

下北沢駅前



電光掲示板は増えているし、ぼざろ作中ではアーケード下のような雰囲気があったのにその雰囲気が少し減っている気がする。そう、下北沢駅周辺は近年再開発が著しいのである。なんか全体的に小綺麗になっているのだ。利便性も向上しているんだろうし、さっぱりすることで人の交通もしやすくなってるんだろうし……いいことなんだろうけど……うーん。


そして少し場所を変え、今回の旅の目玉ともいえる場所に着いた。タイムズの駐車場の目の前の建造物。そう、あのアー写を撮影した大樹が描かれている壁だ。

 

例のアー写場所。ぼっちもシールになって貼られている。



おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。
実際に眺めてみるとデカい。上の方、よく見るとツタの枝っぽい奴があるのだな。ちょっと前にばっさり切られてしまったらしいがその残滓がかろうじて残っているというわけだ。そして劇中では消されていたが下の方にもびっしりと数々のストリートアートが描かれ、ポール?的な奴には結束バンドメンバーを始めとした大量のサブカル系のシールが貼られている。ちなみにこのタイムズの駐車場を囲むかのようにいくつものストリートアートが建物の壁にびっしりと描かれている。この場所、陳腐な感想だがカオスだ。ロックでとてもいいじゃないか。しかしこの大樹が描かれし壁、先述の再開発の影響か近々取り壊されてしまうそう。駅周辺を歩いてみるとどこもかしこも工事中で再開発がすごい勢いで進んでいるのだと実感させられる。うーん、身勝手な感想だけどこういう古き良きシモキタも残ってほしいんだけどなぁ。

 

吉野家で朝ごはんを取って閑静な住宅街の方を歩き始める。賑やかな商業地域とは打って変わってものすごく静かだ。下北沢という町が清濁併せ呑む街というのがこういう場所から分かる。どんぐりひろば公園についた。アー写撮影場所探索のさなか、結束バンドメンバーが休憩していた場所だ。郁代とリョウがバインバインしていた謎遊具に乗ってみる。馬?の方は乗り心地が良かった。カタツムリの方は前後につっかえてあまりスムーズには乗れなかった。聖地巡礼ってこういうのがいいんだよ。視覚だけじゃなく、触覚とかの五感で作品を味わえるわけだから。

どんぐりひろば公園

そしてやってまいりました。下北沢シェルター。ASIAN KUNG-FU GENERATIONがインディーズ時代に精力的に活動し、初のワンマンライブを開いたことで知られる名物ライブハウス。結束バンド一行が拠点とするSTARRYのモデルとして知られ、アニメファンの間でも俄かに知名度が急上昇、ぼざろの聖地という話ならアー写の大樹と並ぶ定番の場所。なのだが……。

下北沢SHELTER。なんだかmono monoしい。


看板にはこの通り。ご丁寧に三ヶ国語。確かに「ぼざろ」の人気はすごかったが、聖地巡礼におけるファンのマナーが問題になったことは今も記憶に新しい。公式サイトで注意喚起が発表される程度には騒がれた。しかし聖地巡礼の負の側面というのが、このように可視化されて突きつけられたのは初めてだ。当然だが、アニメの舞台となる街には地域の住民がいることが多い。「オーバーツーリズム」なんて言葉が生まれて久しいが、我々もまさに観光公害の片棒を担いでしまう可能性がある。考えさせられた、というか身につまされた。私もだし、拙文を読んでいる読者諸君におかれましてもマナーの遵守など自省しながら観光は行っていただきたい。


他にもヴィレヴァンが入っている下北沢マルシェとか、虹花が星歌と喧嘩したあとに飛び出していった土管のある空き地とか色々回る。楽しいなァと思いながらも、周囲を見回しても”同業者”と思われる人が少ない。それよりかは子連れのファミリーの数が時間が経つにつれて増えていっている気がする。いかにアングラ文化の街とはいえ、当然家族連れも多いんだな。そりゃ日曜の朝だから当然か。

 

そうこうブラブラしていると10時半になった。こぎと合流し、会場である北沢タウンホールに入る。ちなみに昨日、筆者が下車したあとの遠征部隊の足取りはというとまず東京に実家があるまっつごーを実家前で下ろした後、じゃすみんとこぎの二人はなんと無料駐車場に車を停め、車中泊をしたそうな。あまりにもパワフル、そして一人だけネカフェ滞在を敢行したことに申し訳なさを感じる。


何事もなく入場し、慣れた手つきで設営を終わらせ、近くのコンビニでお品書きを印刷し、準備を全て終わらせた。開場を待ち望んでいるとふと隣から声をかけられた。「ぼっちのせんりつ!」の主宰であった。はるばる京都より参りましたなどと他愛ない世間話をした後で、思い切って、恐る恐る尋ねてみた。


「あのぉ……今回の参加のいきさつなんですけど……そのぉ……会誌の記事?とかにするっていうのは……?」
「あぁ!全然問題ありませんよ!!」
……驚くほどあっさりとOKサインを貰えたため、こうして駄文をしたためているわけだ。

そうこうしているうちに12時になった。「ぼっちのせんりつ!」ついに開幕である。

 

 

……なんか人多くね?
来場者数がめちゃくちゃ多い。最初の1時間でよんこま小町並、下手したらその倍は来ている。聖地開催だからか、イベント会場がそもそも首都圏だからかは分からないが、体感として人が多すぎる。これが「ぼざろ」のコンテンツ力……。頒布数も上場であった。規模感が分からなかったので高を括って全体的に少なめに持ち込んでしまったのが悔やまれた。新刊の表紙は好評であった。大槻ヨヨコと伊地知虹花の同人誌を購入し、売り子をし、雑談をしてたらいつの間にか即売会は終わっていた。


第五章 下北沢グッドバイ

15時半、イベント終了。ここから先は帰路である。え?どこに変えるのかって?

もちろん京都に決まってんだろバカヤロウ!!!


「ぼっちのせんりつ!」の開催日は6月1日の日曜日。もう一度言う。日曜日である。日曜の次に月曜がくるのは世の理。天地がひっくり返っても覆らない。もちろんこの週は幸か不幸か何か特別な行事があるわけではない。平常運転、通常業務。何の変哲もない一週間が左京区吉田本町に鎮座している。今回の遠征メンバーの大半が月曜に授業を抱えており、こぎに至っては大学のアルバイトの初回が9時から入っているため絶対に遅れるわけにはいかない。帰ろう、京都。滞在21時間にして、我々は太陽を追いかけるかのように下北沢を後にした。


筆者、こぎ、まっつごーの3人でじゃすみんの運転する車を待っていた。しかしここで思い出してほしい。我々がいるのは下北沢、総じて道が狭い下北沢である。そしてその狭い路地には居酒屋をはじめとする飲食店が密集している。そして今日、6月1日は日曜日。神が定めし休息日サバト。それはそれは多くの人が、残り少ない週末を楽しむために喫食・喫飲に赴く日。これら3点が何を引き推すか。……我々の対面からじゃすみんの車が、それはそれは注意深く、ゆっくりゆっくりやってきた。じゃすみん曰く、「本当にストレスのかかる運転で気が狂いそうだった。」……ほんとすんまへん……。

 

諸事情で東京に残らざるをえないまっつごーを再び実家で下ろし、我々三人の大帰宅が幕を開けた。西へ進むこと2時間強、遠征部隊真の目的地その二こと山岡家厚木店についた。入店早々店員から一言。
「お客様、申し訳ございません。ただいま10組待ちとなっておりますがよろしいでしょうか?
10組待ち!?!?!?!?!?!?

みんな山岡家好きすぎるだろ。しかし背に腹は変えられん。ここで別店舗に向かっても同じくらい待たされるのは必定。決心をし、厚木店に居座ることを決めた。車内で仮眠を決め込みながら待つこと40分、思ったより回転率が高く、早めの入店に成功した。看板メニュー、辛味噌ネギラーメンを賞味する。うまい。不動のうまさだ。味噌のコクと豚骨のうまみに唐辛子のパンチが効いている。山岡家はご存じの通りチェーン店だが、工場から配送された調理済みスープを使っているのではなく、各店舗でそれぞれスープを直炊きしている。だからこそこのクオリティ、だからこそ24時間営業であるのだ。

山岡家の辛味噌ネギラーメン(¥980)。美味しいけど豚骨の脂で床がヌメヌメしている。

 

山岡家で腹ごしらえをすませ、我々はひたすらお喋りしながら高速を走り続けた。車内ではじゃすみん選曲のプレイリストから音楽が流れていた。真っ暗な中の楽しげな行軍、するとこの局が流れ始めた。forfoliumの『Now Loading!!!!』。『NEW GAME!』のEDだ。明日への希望を感じさせる明るい曲調。我々の気分は最高潮に達し、そしてサビに突入した!

「月曜日が街にやってくる 桜舞う電車に飛び乗る」

Amazon.co.jp: TVアニメ「 NEW GAME! 」エンディングテーマ「 Now Loading!!!! 」: ミュージック

通り魔に背中を刺されたかのように、我々の希望は順次に絶望へと変わり果てた。社会人となった新卒オタクたちが『NEW GAME!』を純粋に見れなくなるという噂が、生々しい重みを伴って心の底から理解できた。

 

ところで、この車はどこに向かっているのだろうか。何をバカなことを聞く、京都に決まっているだろう。こう答える読者が大勢であろう。しかし、我々が乗っている車は片道Goなのだ。片道Goの車の返却先店舗は指定されていることが多い。今回の返却先はなんと大阪。明日の昼までに返せばよいのだという。この話を筆者が効いた直後、じゃすみんがこのように話しかけてきた。
じゃ「こぅせーくん、明日ヒマ?」
こぅ「は、はぁ」
じゃ「明日、一人で運転して返しに行くのイヤなんだよね」
こぅ「……ん?」
じゃ「だからさぁ……一緒に大阪来てくれない?」
こぅ「んんんんんん~~~~~~~~~~~~~~???????????????」

36時間前、こぎの不運を笑っていたはずが、いつの間にか笑われる側になっていた。


最終章 解放→苦

6月2日月曜日13時20分。曇天の下で下北沢より生還した私は…。私は……。私は……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


万博公園に来ていた。

万博(2025)ではない。万博(1970)だ。というのも、じゃすみん曰く「途中で下車してくれてもいい」とのことだった。強いていうならどこに行きたいか、と尋ねられた私は万博記念公園内にある国立民族学博物館を挙げた。そこから先は早かった。深夜に京都に着き、翌朝出発し、昼には吹田に連行された。もちろん予定されていた私の月曜2限、3限、4限は全ブッチである。


もうすぐ閉幕する特別展『民具のミカタ博覧会』をとぼとぼと見ながら今回の即売会を振り返った。確かに、晴天の霹靂ともいえる突然の参加決定であったが、ふりかえってみるとうまいものは食べれたし、「ぼざろ」の舞台下北沢の変わりゆく風景、その中でも変わらない、変わってほしくない光景を知れた。「ぼざろ」愛に燃えるイベント参加者たちの熱量も刺激になった。そう考えると……今回の弾丸出展も悪いものではなかった。展示の一つ、共飲するためにいくつもの飲み口がついているウガンダの酒壺を眺めながらしみじみとそう考えた。「廣井きくりがこれ使ったら面白い絵になりそうだな。」などと余計なことを考えながら。

<終…?>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とでも思っていたのか???

 

真章 そして一年後 ~Re:Re:~

『僕だけがいない街』という漫画を知っているだろうか。タイムリープものという異色のサスペンス屈指の名作である。2016年には結束バンドもカバーしたASIAN KUNG-FU GENERATIONの「Re:Re:」を主題歌としてアニメ化もなされた。

きららではないが名作。“本当に奇遇なことに”筆者は正月で一気見した。見ていなかったらこれから述べるようなことは起こらなかっただろう。これもバタフライエフェクトなのかもしれない。

詳しくは本作を見てくれるとよいのだが、本作の主人公、藤沼悟は再上映リバイバルという特殊能力を有している。主人公にとって「よくないこと」が起こるとその数分前に主人公がタイムリープし、その「よくないこと」の原因が取り除かれるまでタイムリープが繰り返されるというものだ。本作は主人公がこの再上映によってある一つの難事件に巻き込まれてしまうというのが大まかな筋書きである。私はアニメ版を見たのだが、ただの他人事・絵空事としてしか感じていなかった。タイムリープなんて起こるわけがない。そう思っていた。……あの瞬間まで。

 

 

あのけたたましい下北沢行軍から一年が過ぎようとしている。

2026年3月15日、私とまっつごーは大阪産業創造館にいた。第26回よんこま小町に参加していたからである。80sp程度の四コマ漫画系オンリー即売会は、何事もなく牧歌的に終わるかと思われた。いつも通り頒布をこなし、いつも通りアフターイベントのじゃんけん大会に突入した。流石に去年みたいなことは起こらないだろうと高を括っていた。

 

……が。
いきなり奇妙な景品が出された。それは5月23日(土)に下北沢で開催される『ぼっち・ざ・ろっく!』オンリー即売会、「第二回下北沢ぼざろ祭~にじかのドラム!」の申込用紙であった。これを視認した瞬間、私の身体は強烈な悪寒に襲われた。

しかもこの申込用紙、何かおかしい。支払い証明の印鑑がすでに主催者によって押されているではないか。そう、この申込用紙を勝ち取ること、それすなわち「ぼっちのせんりつ!」に無料で参加できることを意味するのだ。この事実を知った刹那、猛烈な吐き気を覚える。

 

主催「それではみなさん」

いやだ、やめろ。

 

 

 

主催「今から」

やめてくれ、本当にお願いだ。

 

 

 

主催「この景品をめぐって」

しかし、私のこのような懇願が届くことはない。

運命とは、げに残酷なのである。

 

 

 

 

 

 

 

主催「じゃんけん大会を行いたいと思います!!」

再上映リバイバルが始まった。

 

 

 

絶対に参加したくない。虫の知らせというものがあるとすれば、この瞬間ほどそれをビンビンと感じたことはない。頑なに参加を拒否し続けたのだが、隣のまっつごーから「面白いから行け!!w面白いから行け!!ww」と執拗に言われ続けたためしぶしぶ参加する。

 

去年と同じく、参加者は京大きら同の2名を含めて7名。確率は単純計算で七分の二。だいたい25%といったところか。ただ、我々は去年も参加している。2年連続でじゃんけんに勝ってしまう確立なんぞたかが知れているはずだ。

そして結果は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また勝っちゃった……。


京大きら同、奇跡の2年連続下北沢連行確定

去年と同じく勝ったのは筆者だ。大戦犯である。去年と同じ人に同じように同じイベント参加申込書に必要事項を書かされ、よんこま小町は幕を閉じた。

 

呆れられてしまった。

 

このブログ記事が投稿される数日後、

5月23日(土)の12時から北沢タウンホール2階ホールにて我々京大きらら同好会はイベントに参加する。スペースは金沢八景03だ。

もう一度言おう。

5月23日(土)の12時から北沢タウンホール2階ホール、スペースは金沢八景03である。

 

京大きら同はこれからどうなるのか……。というか全ての責任を取らされて単身下北沢にカチコミに行く筆者はどうなるのか……。

この波乱の行く末を、ぜひ下北沢で刮目してほしい。

<終>

【特別公開】第一回下北沢ぼざろ祭弾丸参戦記ー前編

ブログ掲載にあたって

京大きらら同好会のこぅせーと申します。

本記事は京都大学きらら同好会の会誌『京雲母vol.3』に収録された『下北沢のろくでもないジョーク―「ぼっちのせんりつ!」弾丸参戦記』を増補・再録したものです。

文章構成などもWebメディアでの掲載を念頭に置いていたため、会誌版よりも読みやすくなっていると思います。

京大きらら同好会が歩んだ数奇な旅路をお楽しみいただけると幸いです。

登場人物

  • こぅせー
    戦犯その1。全ての元凶であり、この文の筆者。好きな作品は『スローループ』
  • 小汚いエアコンの生け捕り
    戦犯その2。通称 "こぎさん"。好きな作品は『球詠』。今回、下北沢には行かないはずだったが……?
  • じゃすみん
    きらら同好会会長。彼がいなければこの旅は成立しなかった。好きな作品は『紡ぐ乙女と大正の月』
  • まっつごー
    きらら同好会"自称"副会長。現在の京大きら同の中心的存在。好きな作品は『スロウスタート』

  • 本来、下北沢に行く予定だった人。好きな作品は『星屑テレパス』


序章 MAKUAKE

「バタフライエフェクト」という言葉がある。些細な行為が予想もつかない場所で予想もつかないことの原因になるという意味である。「北京の蝶の羽ばたきはニューヨークで台風を起こす」とかいうあれだ。古今東西、バタフライエフェクトが起こった例を出すことは枚挙に暇がない。そしてここにも一匹、大変な事態を引き起こしてしまった哀れな蝶がいたのである。

 

第一章 アネモネの咲く春に

2025年3月2日、私と小汚いエアコンの生け捕り(以下こぎさん)は大阪産業創造館にいた。第25回よんこま小町に参加していたからである。80sp程度の四コマ漫画系オンリー即売会は、阪大や神戸高専のきら同とも交流をしつつ、何事もなく牧歌的に終わるかと思われた。終わるはずだった。終わるに違いなかった。しかしそうはならなかったのだ。


よんこま小町ではアフターイベントのじゃんけん大会が恒例となっている。これは各サークルが様々な景品(書き下ろし色紙やらポスターやら)を自前で用意し、じゃんけんで勝った参加者がゲットできるというものだ。これにこぎと私は参加したのだが…全然勝つことができない。良い線いったとしても最終決戦で運悪く競り負けてしまう。第24回では景品をゲットできたことも相まって、京大きら同のスペースには悲壮感が少しずつ漂っていった。

 

すると、奇妙な景品が出された。それは6月に下北沢で開催される『ぼっち・ざ・ろっく!』オンリー即売会、「ぼっちのせんりつ!」の申込用紙であった。しかしこの申込用紙、何かおかしい。支払い証明の印鑑がすでに主催者によって押されているではないか。そう、この申込用紙を勝ち取ること、それすなわち「ぼっちのせんりつ!」に無料で参加できることを意味するのだ。この景品が出されたとき、会場は当然ざわついた。もちろん京大きら同スペースもざわついた。その時、勝てなくてムシャクシャしていた私とこぎはこんな感じの話をしてしまった。

「どうせ今日は負け続きで勝ち取れるわけないやろし、とりまおもろそうやからやってみるべ!www」

ノリと勢い、ここに極まれり。話のネタを謙虚に求める姿勢だけは尊敬に値するが、それ以外があまりに軽率すぎる。1分後の未来を予測出来ていたらこの二人は同じ決断をできただろうか。最終的な参加者は筆者とこぎを含めて7名。じゃんけんは参加者同士で戦うのではなく、前にいる代表者の手に勝ったものが勝ち残っていくというよくあるやつだ。開幕の合図が叫ばれた。


「それじゃあいきますよー!!最初はグー!!じゃんけんポン!!!」

 

代表者が出したのはチョキ。私以外の6人は全員パーを出している。そして私はというと……しっかと握りしめた拳を、それはそれは高らかに掲げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝っちゃった……。

その時の筆者のイメージ図。グーを出したという状況も含めて、マジでこんな感じだったと思っていただいて構わない。なお、「リコリコ」は当然きららではない。

 

堂々の一人勝ちである。


(え?え??え???あーバカバカバカ。なんで参加したんだ俺。え?勝ったの?てかなんで参加しちゃったの??そりゃそうじゃん!色紙とかと違って無料のサークル出展の権利なんてサークル参加者しか参加しねぇじゃん!一般参加者じゃんけんやらねぇよ!!え?え??え??どうするの?えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?)


勝ってしまってからの展開は実に早いものであれよあれよという間に件の申込用紙に、サークル情報・代表者の個人情報の記入が完了した。下北沢から逃げられないことが確定してしまった。当然ながら代表者は、勝負に勝った大戦犯である。
最後の最後で大どんでん返しがあったよんこま小町を後にし、帰りの京阪電車へむなしく乗車。100回くらい「え?wどうします?www」ってお互いに言い合ったと思う。樟葉辺りでお互い何も言わなくなった。現実を受け入れるしかないと、ようやく気付いたからである。

 

そして沈黙を切り裂くように、Discordの通知音が鳴った。まっつごーからの返信が来たのである!今回のよんこま小町の実働部隊は私、こぎ、現場にはおらず諸々の準備をしていたまっつごーの3人だ。当然、勝ってしまった直後、電車に乗り込む前に彼にあらましを連絡しておいた。きらら同好会”自称”副会長、まっつごーは有能な男である。何か挽回策を与えてくれるに違いない。加えてこの男はノリもいい。妙案が浮かばなかったとしても、面白がり、爆笑してくれるはずだ。この状況も笑い話にしてくれることだろう。そのように期待をしながら、私は嬉々としてDiscordのDM欄を開いた。彼からの返信はというと……


「えっどうする……???」


返ってきたのは奇策でもジョークでもなく、素の困惑であった。

後にも先にも、これほど困惑している彼を私は見たことがない。

第二章 飛べないイベント

飛んだ”お土産”を抱えて左京区に戻ってきてしまった。勝ってしまったものは仕方がない。予想外だとはいえせっかく頂くことができた貴重なスペース。飛ぶなんてもってのほか、我々の信用・信頼は地に堕ちてしまう。何より「仁義」というものがそのような暴挙を決して許さない。この瞬間より、我々(特に私)の考えは現実逃避から、いかようにして参加の準備をするかに転換していくことになる。

 

参加するにあたり、考えなければならないことは二つあった。
1.どうやって行くのよ?
2.なに出すのよ?

 

まず、シモキタまでどうやって行くのよ?当然だが出展代表の私は行かないといけない。が……どうやって???正直言ってこれが一番のネックである。だって遠いんだもの。新幹線……は高すぎるし、夜行バス……も往復だと小さくはない出費だし……。最終的に会内で議論した末に辿り着いた結論が、私単身で乗り込むことを前提として会から交通費として片道分の夜行バス代を出してもらい、帰りの夜行バス代についてはぼざろオンリーの売り上げをそのまま流用するというものだ。純然たる現地調達方式である。メタルギアソリッドかよ。


カスのソリッド・スネークになることを半ば覚悟していたら5月中頃、天啓が舞い降りてきた。きらら同好会会長、じゃすみんが車を出してくれるのかもしれないというのである!!トヨタレンタリースの片道GOを使って3、4人集めれば、高速を使ったとしても一人頭片道5000円ちょっとで東京―京都間を移動できる。そして東京に移動する人間が多ければ売り子を確保することもできる。加えて移動のついでに途中下車も可能。それすなわち、レアな極上ハンバーグを安心安全に提供するため、本社のお膝元・静岡でしかチェーン展開をしていないさわやかな大人気ハンバーグチェーン店「炭焼きレストランさわやか」と、きら同内で一定の支持を集めているがなぜか京都には全くなく、直近の店舗が滋賀県長浜か三重県四日市にしかないため行こうとなればそこそこの根気がいる有名ラーメンチェーン店「山岡家」にログインすることができるのだ!!!この妙案が出された瞬間、我々の第一目標はぼざろオンリーからさわやか&山岡家へと華麗なるシフトチェンジを遂げた。体力有り余る若人の食欲とはげに恐ろしい。私とじゃすみんの他に、まっつごーと飛がこの案に乗り気であった。ひとまずシモキタまでのアシはなんとかなりそうである。

 

で、行く方法はなんとかなったけど……何出すのよ?当然だが今回出るイベントは下北沢ぼざろ”オンリー”である。オンリーイベントであるからにはぼざろをメインテーマにした何かを出さないといけない。しかしだ。我々が出している会誌『京雲母』に今まで寄稿された個別記事でぼざろを扱ったことはあれど、一冊まるまるぼざろを大々的に扱ったものは頒布したことがない。別に同人誌に縛る必要はなく、頒布するのはぼざろのグッズとかでもいい。しかし作ってきたぼざろグッズの数も非常に少ない。唯一のグッズは昨年の学祭で頒布したエッッッッッッッッッッッッッッロい喜多郁代のクリアファイルだけなのだ。ぼざろオンリー唯一のぼざろ関係の頒布物がこれなのは、あまりにもあまりにもである。てかそもそも出せんのか?規約的な面で言うと、頒布物の条件として「直接的なセックス描写の表現物がない事。※単なるキスやハグなど、また性行為も婉曲な表現などなら問題ありません。」と書いてある。このイラスト、ドエロイけど直接的なセックスではない。ドエロイけど。一発アウトにはギリギリならないだろう。ドエロイけど。しかしなぁ……。瓜田に履を納れず。李下に冠を正さず。藪をつついて蛇出すな。マジでエロい喜多郁代を持って行くのはやめておいた方が賢明だろう。

 

追記:そんなマジでエロい喜多郁代のクリアファイルは毎年11月にある京大の学祭で変えるぞ!あるいは『京雲母vol.2』にクリアファイルに使用されたイラストが掲載されているから見たい人はぜひ購入しよう!!

 

そんなこんなであーだこーだ議論した結果、最終的な結論が出された。

「新刊、出そう!」

英断である。レギュレーションはぼざろに関係している創作物であること。イラスト、小説、なんでもござれ。編集は戦犯その2……もとい、こぎが担当する。一方今回の事態を引き起こしたA級戦犯はというと、非常に、極めて、大層お気楽だった。寄稿する気は一切なかったからだ。みんな頑張ってくれたら本はそのうち出来上がる。果報と言うのは寝て待つものであるのだ。さぁみんな!気張ってくれよ!!
そうやってグーグースヤスヤ過ごしていたら、Discordサーバーに寄稿予定者への催促のメッセージが飛んできた。〆切1週間前である。おーおー、メンションがいっぱい飛んでら。てかそもそも誰が寄稿するんだろう。えーと、どれどれ……。

ん……?俺……載ってね……?

 

手違いなのか勘違いなのかは分からないが、記事を寄稿する以外の選択肢はなくなっていた。当然ながら進捗は、0。ロングスリーパー、ここに撃沈す。A級戦犯に下されしはやはり有罪判決と相場は決まっているのである。協議の結果、マジでページ数が足りなさそうなので急遽記事を一本拵えることになった。題材は迷いに迷った挙句、京都大学におけるロックンロールの聖地「西部講堂」の紹介記事となった。〆切を一週間程度過ぎた末に贖罪は成し遂げられた。貴重な紙幅を借りてここに陳謝したい。

こぎさん、〆切破ってごめん。

こぎからのメッセージに対する返信。「2」のリアクションを押している中には新入生もいた。悪い先輩の鑑である



迷走しながらも着々と、下北沢ぼざろオンリーの準備が進んできた。意外といけるんじゃないか……というかむしろ楽勝……?楽観的な空気が私の周りに漂い始めていた。そしたら一枚の画像がこぎより届いた。そういえば今回のイベントのサークルカットはこぎに頼んでいたのだ。

そして確認した画像が、これ↓↓↓↓



465km……。楽観的な空気は、現実的な距離という冷や水をぶっかけられたことによって跡形もなく流された。
「そうですか……。」
画像を見つめながら、ただ一言、そう呟くしかなかった。6月1日は、まだ遠い。


第三章 遥か彼方

ぼざろオンリーで出す新刊『落第生とぼっちのビート!』も無事刷り上がった。そして迎えた5月31日、出発日である。あとは出発するだけなのだが……一つ大問題が発生した。本来行く予定であった飛が急遽、家庭の事情で来れなくなってしまったのである。行く人数が3人になると帰るときに大きな問題が起こる。というのも、先述したように行きの交通費は会費から出るという話だったが帰りは会員の割り勘、要は自腹である。そして行くメンバーに入っているまっつごーは諸事情で東京に残る必要があるため帰りの車には乗らないのだ。すなわち帰りのメンバーは私とじゃすみんの二人。負担は一人当たり7000~8000円。正直渋い。片道GOは同乗するメンバーが集まらなければ割に合わないのだ。余談だが私の他サークルの友人は「詰め込めば詰め込むほど車代って安くなるねん」という迷言を残している。


さてどうしよう。どうしたものか。あれこれ悩んでいるとじゃすみんがおもむろにスマホを取り出し、電話をかけ始めた。かけたのはもちろんあの男だ。

じゃ「もしもしこぎさん、今何やってる?」
こぎ「えー?お昼のそうめん茹でてるところやけど?」
じゃ「あのさー。東京モチベない?」
こぎ「……え?」
じゃ「東京行かない?」
こぎ「んんんんんん~~~??????」

当然の反応である。後から聞いたら、茹で上がったそうめんを前にずっとぐるぐる歩き回っていたらしい。電話するじゃすみんを横目に「懊悩とはこういう状況を表すのだなぁ」などと考えていた。

 

こぅ「いやぁ、そもそも今回我々の責任じゃないすか」
こぎ「んんんんんんんんん~~~~~~~~~~~~」
こぅ「山岡家とさわやかに行けますぜ、兄貴」
こぎ「んんんんんんんんん~~~~~~~~~~~~」
こぅ「そもそも往復5000円ちょっとで東京に行ける機会、多分これ逃したらないと思うんだよなぁ」
こぎ「んんんんんんんんん~~~~~~~~~~~~」

煩悶すること10分、ついに答えが出された。


こぎ「行くよ!!!」

 

小汚いエアコンの生け捕り、当日参戦確定!!!出発直前にして激アツ展開が巻き起こった。そうめんを急いで腹に詰め込み、10分で旅の支度を済ませたこぎを回収して我々4人は東へ向けて旅立った。


高速道路に乗り車に揺られること1時間、木曽三川に差し掛かった。普段鴨川しか見ない私にとって、あまりにも広い木曽川と揖斐川の川幅は衝撃に足るものであった。休憩も兼ねて伊勢湾岸自動車道の湾岸長島パーキングエリアに立ち寄った。目の前にどでかいジェットコースターがあるではないか。そう、ここ湾岸長島パーキングエリアの目と鼻の先には、世界最大のローラーコースター「スチームドラゴン2000」を有する東海地方最大の遊園地、ナガシマスパーランドがある。そうした立地と休日であったことも相まってか、それなりに混雑していた。とりあえず車から降りて徘徊を始めると、なにやら不思議な小屋があった。パーキングエリアには似つかわしくない、壁のない木製の小さな小屋。なんだろうと疑問に思って近づいてみると……

足湯だ!!!!!



こんなところで足湯に遭遇するとは思っていなかった。当然入る以外の選択肢はない。男4人、靴を脱いで入浴を開始した。気持ちいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!この日は曇り空で少し肌寒いくらいの気温、だからこそ足湯の効果が倍増する。出発から2時間足らずで我々は非常に有意義な休日を過ごすことになった。なお、衝動的に入ったため足を拭く用のタオルは誰一人持ってきていなかったことに気づくのは、もう少し先の話である。

 

思いもよらず遭遇した足湯を思う存分堪能し、再び行軍を開始した。
東へ東へ進むこと数時間、我々一行は高速を降りた。向かうはもちろんあの場所……

さわやかだ!!

さわやかのげんこつハンバーグ(¥1540)。ソースはデフォルトでかけてもらうことになっており、通はソースをかけてもらわない、と聞いていたが日和って断ることができなかった。私は弱い。

 

さわやかハンバーグ浜北店にやってきた。静岡県の至宝、さわやかハンバーグ。中がレアなことで有名なハンバーグだが、このハンバーグを提供するためには並々ならぬ企業努力があった。世界で最も安全と言われている(さわやか談)オーストラリア南東部で育てたアンガス牛のみを使用し、絶対に細菌が入らないように食肉加工の際は念入りに注意して処理がされ温度管理・製造室への入室管理・病原菌検査も徹底、検査結果も毎日公表し、極めつけに安心安全と美味しさの保障のため、ハンバーグを静岡県袋井にある本社工場からその日のうちに届けることができる範囲にしか店舗を展開していないため、静岡県内にしかチェーン展開がされていないのである。ここまで徹底しているからこそ、静岡から離れた場所に住んでいる者にとっては幻のハンバーグと言えよう。生まれも育ちも関西から出たことがない筆者、実は食べるのが初めてであった。看板メニュー、「げんこつハンバーグ」を恐る恐るオニオンソースで一口……

うまい!

なんだこれは。美味すぎる。当然だが、げんこつ "ハンバーグ" はステーキではないが、ハンバーグとも少し違う気がする。我々が想像するハンバーグはひき肉感が残っていると思うのだが、げんこつハンバーグはひき肉と言うよりも「肉塊」に近い。ハンバーグなのに弾力があり、ゆえに噛み応えがあり、「肉!」という主張が強い。しかしそれでもステーキと違って口の中で徐々に肉がとろけていく。これは「さわやか」という食べ物である。うまい。本当にうまい。ライスを頼めばよかったと心の底から後悔した。絶対また来ようと決心し、東遷を再開する。

 

浜松を出発したあとの道のりについてだが、特筆すべきことはない。本当に何もないのだ。高速道路をただただ走っていた。正確には走って”もらっていた”。運転手の二人、ありがとう。そして17時過ぎにさわやかを出発し、東名高速を走り抜け、20時3分。ついに着いた。夢を追い求める者が流れ着く街。地下文化(アングラ)の蔓延る街。下北沢へ。

 

【後編へ続く……】

アイドルノブナ☆ガール1巻と京都を巡る

この記事はきらら同好会 Advent Calendar 2025 16日目の記事です。

こんばんは。京大きら同の小汚いエアコンの生け捕り(@callme_kogi)です。寺,燃やしてますか?今回は2025年12月現在キャラットで連載中の『アイドルノブナ☆ガール』に関する記事です。

 美少女となって現代に転生してきた織田信長が個性的な仲間たちとアイドルの天下を獲ることを目指すギャグ&青春コメディ4コマ,『アイドルノブナ☆ガール』。作品の中では史実や逸話に基づいた織田信長ならではの要素(「敦盛」,鷹狩 etc...)を基に話が作られることがあり,作品に色どりを与えています。そこで私は思いました。信長のことを知っていればいるほどこの作品を楽しめるのではないかと。作品の中で信長エピソードが使われる時はちゃんと解説が入るので,読むうえで信長知識が必須であるというわけではもちろんありませんが事前に元ネタを知っていればニチャアできると思うんですよね。きららファンタジアのイベントストーリーを読むときなどでも,原作の出来事を元にした話が展開される場面では好きな作品だとすぐにピンと来て「あぁ~アレね」と気持ちよくなっていた気がします。

 というわけで今回は信長について知り『アイドルノブナ☆ガール』をもっと楽しむために京都にある信長ゆかりの地を巡ってみたいと思います。朝廷がおかれ,室町幕府があった京都は天下統一を目指すうえで非常に重要な場所。天下統一を目指した信長の痕跡は京都の様々な場所に残っています。実際にその場所を訪れ,信長に思いをはせることで見えてくるものがあるかもしれません。

 

※「作品をより楽しむために~」等は建前で,Twitter(現X)で新人編集キャラットちゃんさんがリポストしたことで私のTLに流れてきたこちらのツイートを見て自分も単行本と歩き回りたいなと思ったので信長さんぽをやりました。「〇〇,△△だよ」やってみたかったんですよね。私は普段あまりグッズを買ったり,持ち歩いたりなどはしないタイプなのでやる機会がなかった

出発

 今回は京都大学から歩いていける範囲の信長スポットを巡ります。紅葉シーズンが終わり,年末まで少し時間のある12月初旬の京都は人が少ないのでおススメです。大学を出て,百万遍の交差点を西に向かいます。加茂大橋を渡り,北西に進むと…

アイドルノブナ☆ガール,阿弥陀寺だよ

蓮台山 阿弥陀寺

この場所には信長の墓があります。この寺では毎年,本能寺の変があった6/2頃に信長忌という法要が行われています。信長忌当日は普段非公開の本堂内が公開され,貴重な寺宝を観覧することができます。

 信長の墓がここにある理由を示す逸話として,こんな話があります(ここ以降もそうですがちゃんと史料にあたって調べものをしているわけではありません。そんな能力も時間もないです。それに「ノブナガール」でエピソードを使う上で真偽はそんなに重要ではないと思うので)。阿弥陀寺の開山清玉上人は信長と縁のある僧侶(信長の兄の関係者?)で,また、正親町天皇の信頼の篤い高僧であったと言われています。本能寺の変が起こった際には清玉は本能寺にすぐ駆けつけましたが時すでに遅く,信長が自刃した後でした。しかしそこで織田方の武士に遭遇し,信長の遺骨を託されます。武士たちが奮戦するどさくさに清玉は法衣に信長の遺骨を包んで脱出し,阿弥陀寺に持ち帰り供養し埋葬しました。

 信長の死体が見つからなくて,光秀は流石に焦ったでしょうね~。状況的に信長が生きていることはまずないでしょうが万が一信長が生きていて体勢を整えられると光秀は圧倒的窮地に立たされるので,気が気でなかったのではないでしょうか。私が光秀でもし信長の死体を持ち去った犯人を見つけたらドカギレしますね。令和に転生して転生した清玉上人とエンカウントしてもドカギレしますね。

 

阿弥陀寺から西へ向かいます。

アイドルノブナ☆ガール,相国寺だよ

相国寺

相国寺では信長主催の茶会が開かれたことがあり,千利休も参加していたようです。信長が利休から抹茶ティーラテチョコソースブレべクリームカスタムを伝授されたのはこの場所だったのかもしれません。

 

烏丸通を南下し下立売通を西に入ると見えてくるのは…

アイドルノブナ☆ガール,旧二条城跡だよ

旧二条城跡

旧二条城は室町幕府最後の将軍,足利義昭の将軍座所として使われていましたが,信長が義昭を追放し室町幕府が滅亡すると廃城となりました。解体された後は安土城の建築資材として再利用されたようです。安土城といえば令和5年度からスタートしている安土城復元プロジェクト関連の発掘調査の中間報告が最近出ましたね。調査が進んで,信長がどんな意図でどんな城を建てたのか,少しでも新しいことがわかると嬉しいですね。

www.pref.shiga.lg.jp

 

また烏丸通を南下します。京都国際マンガミュージアムの裏にあるのは…

アイドルノブナ☆ガール,二条殿跡だよ

二条殿跡

二条殿は本能寺の変の際は親王家の御所として利用されており誠仁親王が滞在していました。信長の息子信忠は本能寺陥落の報を受け信長の救援を断念し二条殿に向かい誠仁親王を逃がし明智軍を迎え撃ち,戦いの果てにこの場所で自害しています。信忠は「ノブナガール」に登場するんですかね?女体化した父親と女体化した息子がどんな会話をするのか見てみたい気持ちはあります

 

テキトーに南西に向かいます。

アイドルノブナ☆ガール,本能寺跡だよ

本能寺跡

元々あった本能寺は本能寺の変で焼け落ちたので当然現存しません。本能寺の変後に秀吉によって再建されますが場所が変わります。この碑があるのは本能寺の変で燃える前にあったとされる場所で,今は老人ホームと京都市堀川高校の別館が建っています。

 

途中アニメイトに寄ったりしながら北東に向かいます。

アイドルノブナ☆ガール,本能寺(再建後)だよ

本能寺

実は本能寺は天文法乱や蛤御門の変などでも燃やされていて,累計5回の火災に遭っています。そのため現在の本能寺ではヒ(火)が重なる「能」の字を避け本䏻寺という表記が使われています。京都では戦乱が何度もありましたし火災を経験した寺院はたくさんあると思いますが5回は相当ですね。またその度に再建されているというのもすごいですね。人々にとって重要な寺だったんでしょうか。

「能」→「䏻」

次の予定があったのでこの日のさんぽはこれで終わりました。

 

おわりに

 京都は本当に至る所に寺社や史跡があるので普段は素通りしがちですが,今回はいつもと違う意識で町を歩けて楽しかったです。楽しく歩けたのは非観光シーズンの平日で人通りが少なかったからという理由もありますが。健勲神社など訪れていない信長スポットはまだまだあるので,2巻が発売されたらまた単行本といっしょに京都を徘徊するかもしれません。寺を燃やすといえばやっぱり延暦寺は欠かせないですよね。次回はぜひともいきたいです。昨年のアドカレで桜石探しを記事にして,その時に雲母坂(比叡山へと続く道のひとつ)にいってみたいという話をしました。雲母坂を通って比叡山を登り延暦寺にいく,これをやるしかないかもしれない

京都の恋アスオタクが桜石を探す話

こんばんは。小汚いエアコンの生け捕りです。こぎって呼んでくださいね。
今回は『恋する小惑星』(以下恋アス)にも登場した京都府の石・桜石を求め大文字山を歩き回った時のお話です。

 

この記事はきらら同好会 Advent Calendar 2024 9日目の記事です。昨日の記事は東北大学きらら同好会さんの記事でした。個人的に千葉大きら同できて欲しいと思ってるんですよね。そして『6億年の博物旅』監修の泉賢太郎先生の講演会とか企画してくれないかな,,,千葉大のきららオタクは昨日の記事を読んできら同を作って~~~~~~

明日の記事は日本大学きらら同好会さんの記事です。

 

事のはじまり

  2024年6月,恋アス最終回を前に1巻から読み返していた時,あるシーンが目に留まりました。

『恋する小惑星』1巻11話より

京都府の石!!せっかく京都にいるし手に入れたいな~~という気持ちが芽生えてきて,すぐに桜石が取れる場所について調べ始めました。最も有名なスポットは上コマ内の桜天神が位置する亀岡市ひえ田野町あたりのようですが京都府のホームページを見るとそこには大文字山でもとれるという情報が,,,
これは激アツです!!!!
「五山の送り火」でおなじみの大文字山ですが,実は京都大学からは徒歩でいけるくらい近くにあるんです。それほど高い山でもなく,大学生の足であれば一時間で火床とふもとを往復できるので,昂った京大生がよく登っています。そんな身近に桜石があったなんて驚きました。早速大文字山に行って桜石を探したいところでしたが,私はガチ地学徒ではないので(農学部生です),山を歩き回って目的の石を見つける自信はありませんでした。それに,桜石がとれるのが一般人が入れる場所(登山道周辺)なのかもわかりません。そこで様々な伝手をたどり,授業や調査で10年以上大文字山に登り続けている教授にお話を聞くことにしました。その先生によると登山道でも桜石を見ることはあるそうで,さらに桜石のとれそうなスポットを教えてくださいました!ありがたや~~~~~~。機は熟しました。大文字山に登るぜ!
(注意! 大文字山の石はそうではありませんが,「亀岡の桜石」は天然記念物に指定されています亀岡市内では石を採取してはいけない場所があるので行く際には事前にしっかり調べましょう。また大文字山に行く際も,細い道で立ち止まって石を探すなど他の登山客の迷惑になるような行為は慎みましょう。)

桜石について

 本編に入る前に,桜石についてかる~~~~く解説しておこうと思います。桜石の正体は「菫青石仮晶」というものです。「菫青石(コーディエライト)」は,高温のマグマが粘板岩や泥岩,砂岩と接触した際に起きる変成作用によってできる変成岩「ホルンフェルス」中に見られるケイ酸塩鉱物です。「仮晶」は簡単に言うと「鉱物が元の形を保ったまま別の鉱物に変化したもの」で,桜石の場合,菫青石が白雲母に変化しています。大文字山やそれに連なる比叡山の一部はホルンフェルスでできているので,「ホルンフェルス中にある菫青石が変化したもの」である桜石が取れるんですね。余談ですが,比叡山へ向かう道として「雲母坂(きららざか)」という場所があります。上の方までいこうとするとそれなりに険しい道らしいのですが,そこへ行ってきららを読んで自らを高めよう(?)というムーブメントが一時期京大きら同の一部で起きていました(流れましたが)。雲母坂でも桜石はとれるらしいのでいつか行ってみたいです。

ヘッタクソな字



桜石を探す

 さあ,桜石を探しに行きましょう(当時は桜石探しを記事にする気などなく写真をほとんど撮っていなかったので以下には後日撮った写真が多く含まれています)。農学部,理学部のある北部キャンパスを出発し今出川通りを東に進みます。

2024年12月撮影 今年は紅葉が遅かったですね

通り道には「哲学の道」があります。

2024年12月撮影

哲学の道を過ぎると銀閣寺こと慈照寺があります。銀閣寺参道にあるお店から良い匂いが漂っていてお腹が空いてきました。

2024年12月撮影(良い写真がなかった)

慈照寺の前を左に曲がり少し進むと,登山道の入り口が見えてきます。

2024年12月撮影

ここから,時々立ち止まったりゆっくり歩いたりして地面とにらめっこしながら山を登っていきます。

2024年6月撮影 水が湧いている つめたい

,,,,,,,,,,,,

あっっっっっっっっっっっっっっっっっつう~~~~~~~~~~~~~~~~~(本当に暑い)。この日の最高気温は35℃(6月だぞ!!!!!!!!!ふざけんな!!!!!!!!!)。汗をダラダラ流しながら石を探します。

2024年6月撮影 千人塚
太平洋戦争中,陸軍が掘った際に多数の遺骨が出土し,後に供養のために石碑が建てられたらしい

2時間ほど石を探しながら歩き回り,火床に到着しました。クソ暑い+日頃の運動不足+石を取るほど荷物が重くなっていくせいで,かなり疲れましたがとりあえず目的の石集めは十分できたのでよかったです。火床からは京都市街を一望できます。普通に登れば30分程でそこそこ綺麗な景色を見ることができるので,登ってみてはいかがでしょうか。

2024年12月撮影「大」の横線の左端あたり

成果

 それでは結果発表のお時間です。2時間探し回って得られた一番それっぽい石がコイツだ!!!!!!

一番桜の花びらっぽかったやつ

おお~~~~~~~~~~~ん??ふ~ん?まあ桜の花びらにみえないこともない,んじゃないですか,,,?微妙か,,,でも六角形感はありますよね。アッこれね,結構遠目で見たら結構桜に見えます。本当です。いやマジで。見えるから。桜の形に。

,,,本音を言えばもっと綺麗なものが欲しいですねえ。またどこかでリベンジしたいと思います。

 

終わりに

 ここまで読んでいただきありがとうございました。恋アス完結後も,「COIAS」で発見された小惑星に名前がついたり,叡電がコラボイベントをやってくれたりと,恋アスに関する話題がいっぱいあって嬉しいですよね。来年も恋アスの話題がいっぱいあったらいいなあ。

 明日12/10は日本大学きらら同好会さんの記事です!どんな記事なのか楽しみですね。

思い出の近所は何キロメートル先でも ~『ウチから何キロメートル?』を読んで~

 数年間通った京都を去り、はじめての街で暮らしを始めてから半年。数日前に発売された「まんがタイムきらら」をカバンに入れ、気晴らしに旅に出る。


 汽車と呼びたくなるような電車に乗り、一息ついて「まんがタイムきらら」をカバンから取り出す。適当にページをめくり、面白そうな作品を探す。この時間だけは昔と変わらないなと思う。

 

 ページをめくる指が雑誌の真ん中あたりに差し掛かり、気になっているゲスト作品の3話目にたどり着く。蚕二号先生の『ウチから何キロメートル?』。以前のゲスト作品から気になっている作家さんであったところ、今回の作品は一段興味を引かれて今月号を読みたいと心待ちにしていたのだった。

 

 面白い形の自転車が出てきて面白いなと思いつつ、その自転車が河川敷に降りていく。その河川敷を見た瞬間、以前の記憶がよみがえってくるような思いをした。

 

 

 さかのぼること4年ほどか、流行り病のせいで大学に行くことも減り、でも週に1度ぐらいは行かないといけないから定期券を買わずに通っていたことがあった。四条通河原町の地下の駅から地上に這い出て、行きは201号か3号か、あるいは当時なら17号かのバスに乗るけれど、帰りはもったいなくて今出川通から四条通までゆるやかに歩いて回数券の1枚を節約することもあった。

 

 まさにそのときの景色が目の前の「まんがタイムきらら」2024年11月号に広がっている、と直感した。それは全く根拠に基づくものではなく、ただ私の記憶がそう言っているというものであった。

 

 ただその根拠はすぐに見つかった。出てくるバスの行き先表示もまた見慣れたものであったからだった。そしてそこに書かれた番号、202号と93号の数字を検索すると、ここは丸太町橋が鴨川に架かる場所である、という結論が導き出された。ちょうど今出川で降りてきて歩き出してちょっと進んだかな、というあたりの景色だった。

 

 私にとっていつもの場所だった場所が、作中の人物にとってもいつもの場所である。単によく行く場所が作品に登場する、ということだけならこれまでも少しだけ経験してきたことではあったけれど、特に思い入れのある京都という土地で、それだけでなくこの場所に暮らしていると思えるような物語の作品でそんな経験に直面したことで、これまでにない心の揺さぶられ方をしてしまった。改めてこのように感情を文章にまとめていると、暮らしを感じさせて物語に引き込ませるこの作品の素敵さに、ただただ好きだとしか言いようがなくなってしまう。

 

 さて、私が「まんがタイムきらら」2024年11月号の89ページから98ページまでの間を読み込んでいる間にも、私を乗せた汽車は北東へと進み、東の端の岬の少し手前の合流駅で私の身体を降ろし、身体のほうは向かい側の北西へ進む汽車に移り、そこから自転車乗りでもぎりぎり近所じゃないぐらいの距離を進んで、目的地の街の駅にたどり着いてしまった。

 

 この街と私との出会いは反対に、こちらもやはり遡ること4年前、「まんがタイムきらら」2020年10月号が最初であった。思えばこの街との出会いをもたらしてくれた作品もまた、ひとの暮らし、ひとと関わりあって生きていく様子を感じさせるものだった。きっと私はそういう作品のある「まんがタイムきらら」という場所が好きなんだろうな、と思う。

 

 作品に描かれた静かな川沿いの景色も今日は3日間の祭りの最終日でにぎやかで、きっと一昨日ぐらいにはこの景色をカメラに収めて今ごろは現像を待っているころなのかな、と思いながら、今や作品の外の思い出も重ねて大好きになってしまったこの街に、これを逃すと1時間とさらに20分待ちぼうけになってしまう汽車に駆け込んでしばしの別れを告げ、かつて通った街の思い出の名残惜しさも混ざりながら、半年も経てばいつもの日常になってしまってそれもまた好きな街へ帰っていった。明日もまたこの日々を頑張ろう!

 

(明帆川みたけ)

まんがタイムきらら2024年11月号、蚕二号「ウチから何キロメートル?」第3話の紹介ツイート。画像2枚目の1コマ目(雑誌では90ページ7コマ目)が鴨川・丸太町橋西詰の北側。

【完結済みきらら作品紹介リレーブログ⑦】『甘えたい日はそばにいて。』

まえがき

 こんばんは。小汚いエアコンの生け捕りです。京都大学も夏休みが終わり10/1より授業が始まってしまいました。私は週4で一限があり苦しんでいます。あ~あ,かわいいお手伝いアンドロイドさんが毎朝起こしてくれたら大学がんばれるんだけどなあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

寝坊してひなげしさんに起こされたすぎます
川井マコト『甘えたい日はそばにいて。』1巻3P (芳文社、2018)

ということで今回はかわいいお手伝いアンドロイドさんが登場する完結済みきらら漫画『甘えたい日はそばにいて。』の記事です。

基本情報

作品名:『甘えたい日はそばにいて。』

作者:川井マコト先生

掲載誌:「まんがタイムきらら

掲載期間:2017年4月号~2019年5月号

巻数:全3巻

COMIC FUZリンク: https://comic-fuz.com/manga/298

川井マコト『甘えたい日はそばにいて。』 (芳文社、2018)


あらすじ

 人と区別のないアンドロイドが働く世界。人とアンドロイドの恋が禁止されているこの世界で,お手伝いアンドロイドのひなげしは高校生小説家の楓に恋をしてしまいます。恋のライバル,謎の脅迫電話…《秘密の片想い》の結末は…!?

本作の魅力

 本作の魅力は,ひなげしと楓の関係を中心に登場人物たちの想いが交錯し,時にはぶつかりあい,状況が変わっていく中で,彼らが自身と向き合い,苦しみながらも変わっていく姿だと私は思います。例えばひなげしの想いが社会にバレてしまうという可能性に対して,ある登場人物は楓が小説家として活動できなくなることを危惧していたり,ある登場人物はひなげしが処分されるのを危惧していたりするなど登場人物や作中時間によってそれぞれが何を重視しているかが異なっていて,そのためにすれ違ったり誰かが望まない事が起こってしまったりします。

人間とアンドロイドの恋愛は認められていない
川井マコト『甘えたい日はそばにいて。』1巻27P (芳文社、2018)

 物語の中で,登場人物たちは自身の想いやその根底にある過去と向き合いながら,それぞれにとっての最善の道を模索していきます。

川井マコト『甘えたい日はそばにいて。』1巻41P (芳文社、2018)

 あとね,物語の途中で登場する大学生小説家のらんとひなげしの絡みが私は好きです(唐突)

川井マコト『甘えたい日はそばにいて。』2巻28P (芳文社、2018)

おわりに

 拙い文章にお付き合いいただきありがとうございました。ひなげしの恋はどうなってしまうのか,切なくも美しい物語の結末を皆さんの目で見届けていただければと思います。私はこの記事を書くにあたってこの作品を読み直し,困難に立ち向かっていく姿に心を打たれました。これからは私も過去(今まで落とした単位)と向き合い,よりよい未来(単位を取り切って卒業)に向かって努力しようと思います。一限も起きます。
 
 それではリレーブログのバトンを次の会員に渡して、私の記事は終わりとさせていただきます。またどこかでお会いしましょう(11/20~23に京大の学園祭があるので,よければぜひ)。
 

【完結済きらら作品紹介リレーブログ⑥ 】小学生ヒロインライトノベルの名手が贈る王道きらら――『すぱいしーでいず!』

 

書いた人:湖柳小凪

 

まったく、小学生は最高だぜ!!

(※)本ブログの内容は全て湖柳個人の見解です。必ずしも会の総意ではなく、ましてや京大きらら同好会の会員全員がロリコンと言うわけではないので、その点はご留意いただけますと幸いです。

 

1. 序論 ~近年におけるライトノベル原作アニメの概況と蒼山サグ先生について~

 ごきげんよう、湖柳小凪です。

 近年の中でも特に「「「熱い」」」2024年夏クールアニメも遂に終わってしまいましたね。皆さんはどの作品がお気に入りだったでしょうか。ライトノベル好きな湖柳的には、ライトノベル原作アニメが豊作だったことが特に印象的でした。毎週追いかけるのが大変ながらもめちゃくちゃ楽しい3か月間でした。

 

 最近でもライトノベル原作アニメが1クールで十数本あるクールは珍しいわけではないのですが、やはりそのような場合でも「異世界転生」「悪役令嬢」といった、いわゆる「なろう系」と呼ばれる、web小説投稿サイト発の作品が半分以上を占めることが殆どでした。しかし、2024年夏クールのは一味違います。単にライトノベル原作アニメが多かったというだけではなく、その半分近くが「web小説投稿サイト発ではない」という点でしょう。

 最終的に今期の覇権アニメに躍り出た『負けヒロインが多すぎる!』は小学館ライトノベル新人賞であるガガガ大賞を受賞したラブコメ(?)作品ですし、原作は電撃文庫から刊行されている『恋は双子で割り切れない』も、web発ではありません。原作がMF文庫Jから刊行されている『義妹生活』は、もともとYoutube漫画から始まったものノベライズですので若干経緯は特殊ですが、web小説投稿サイト系とはやはり一線を画する現実世界ラブコメと言えるでしょう。つまり今期はいわゆる「なろう系」っぽいというよりはゼロ年代10年代のライトノベルで描かれていた昔懐かしい現実世界ラブコメが奇跡的に舞い戻ってきたクールとも言えたのです。

 ただ、今期のライトノベル原作アニメのトピックはそれだけではありません。『VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた』は今やカクヨムの覇権ジャンルとなった配信系・及びダンジョン配信系の祖といえる作品です。序盤でその作画クオリティの高さからオタクの話題をかっさらっていった『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』は2023年冬クールにアニメ化された『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』と並んで、web小説投稿サイト「小説家になろう」発の甘々現実世界ラブコメの双璧と言えるでしょう。今期はそのような異世界要素を含まないweb小説発の作品も放送され、web小説発のアニメの新たなる可能性について考える機会を与えてくれるクールでもありました。

 もちろん異世界・転生・魔法・主人公最強と言った要素を含む「なろう系」も、今期は数が比較的少ないとは言え『転生したらスライムだった件』3期後半クールを筆頭に、粒ぞろいでした。更に更に、昔懐かしいライトノベルシリーズの続編タイトルだと『〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズン』が前作『続・終物語』から6年の時を経て、待望のアニメ化を果たしました。

 このように、昔懐かしい雰囲気を感じさせる作品からweb小説発の作品群の最前線まで、新旧織り交じったバラエティ豊かなラインナップが2024年夏クールの特色だったといえるでしょう。

 

 ――――――――――――と、いきなりオタク特有の早口でライトノベル原作アニメの話をまくしたてられて、「読みに来るブログ、間違えたかな……」と不安になったそこのあなた! 安心してください、これから少しずつきららの話に戻していきます。

 

 ここまで1500字近く使って語ってきたように、私はライトノベル原作アニメが大好きです。そんな私が特に好きなライトノベル及びそのアニメ化作品に『ロウきゅーぶ!』という作品があります。

ロウきゅーぶ!』1期キービジュアル。
TEAM RO-KYU-BU!ロウきゅーぶ!』(2011年)

 

 この作品は第15回電撃大賞・銀賞を受賞した作品で、2011年と2013年に project No.9*1の手によってアニメ化されました。

 あらすじとしては色々あって高校のバスケ部の活動が休止となってしまった男子高校生の主人公がひょんなことから弱小女子ミニバスケットボールチームの監督を務めることになってしまう……というストーリーです。この作品は小学生のヒロインが非常に可愛らしく描かれているというのも魅力的なのですが、それと同じくらい、バスケの試合シーンは迫真かつ感動的に描かれ、私はアニメを2回見て2回ともボロ泣きしてしまいました。そして今や、『ロウきゅーぶ!』を生み出してくださった蒼山サグ先生は私が最も意識するクリエイターさんの一人です。

 

 そしてそれは2021年の春のこと。『ロウきゅーぶ!』によって まんまとロリコンになった 脳を焼かれた私の元にとんでもないニュースが舞い込んできました。なんと、あの蒼山サグ先生が「まんがタイムきららフォワード」に漫画原作として登場することになったのです!!!!!

 

  これは『ロウきゅーぶ!』のファンとして、そしてきらら好きとして全力で推さざるを得ないですよね☆ 

 

 と、いうことで前座がめちゃくちゃ長くなりましたが、この記事ではあの蒼山サグ先生が原作者として世に送り出した『すぱいしーでいず!』について、2024年夏アニメに負けないくらい熱く、そしてカレーに負けないように辛く(?)、語っていきたいと思います。もしまだお読みになっていない方がいましたら、この記事が新たな素敵な作品と皆さんの出会いの架け橋になれたら嬉しいです。

 

2. 作品情報

1巻 書影。
蒼山サグきんつば『すぱいしーでいず!』(芳文社、2022年)

作品名:『すぱいしーでいず!』

作者:原作・蒼山サグ先生/作画・きんつば先生/料理監修・伊藤雄一

掲載誌:まんがタイムきららフォワード

掲載期間:2021年8月号 - 2023年8月号 

巻数:全3巻

COMIC FUZリンク:すぱいしーでいず! 1巻 (comic-fuz.com) (単話掲載はなし)

 

3. あらすじ

 

潮風とスパイス香る物語。都会育ちのお嬢様、すてらが伊豆大島にやって来た!そこで出会った、すてらと同い年、小学5年生のあい・なつみ・こずえ。この3人はカレー屋さんを開店しようと企んでいて…。

(以上、芳文社公式サイト(すぱいしーでいず!│漫画の殿堂・芳文社 (houbunsha.co.jp))から引用)

 

4. 「きらららしさ」とは何か論争における一考察 ~『すばいしーでいず!』を題材として~

 ここまで蒼山サグ先生が「きらら」で連載することに対して読む前からいかに期待していたかを語ってきましたが、実際に『すぱいしーでいず!』を読む直前まで、私は一抹の不安を抱えていました。その不安は「蒼山サグ先生の作品の個性が私の考える「きらららしさ」にうまくマッチするかどうか」というもの。『すぱいしーでいず!』を読むまで、私の考えでは蒼山サグ先生の作品の個性・特色は以下の2点だと考えていました。

 

①小学生の複数のヒロインを可愛らしく書くこと

②時にはシリアスなチーム間対立や人間関係も描き、心を揺さぶるストーリーを緩急付けて書くこと。

 

 このうち、②の点が私の考えるきらら像とはうまく合致しませんでした。私は老害と言うこともあり、きららにはどうしても「和やか」「癒される」と言った要素を求めてしまい、蒼山サグ先生の心を揺さぶってくるシリアスな展開は「きらららしさ」とはむしろ対極にあるのではないかと思ってしまった*2のです。

 

 しかしそのような不安は1巻を一読した直後に吹き飛びました。蒼山サグ先生はある意味、誰よりも「きらららしさ」を「理解って」らっしゃったのです。本作は蒼山サグ先生の他の作品と比較しても、本作のキャラクターは全員かなりマイルドなキャラ設定になされており、そこには怖がりで人見知りな主人公・すてらを伊豆大島のみんなが温かく迎え入れる、「優しい世界」がそこには広がっていましたそれは『まちカドまぞく』『ぼっち・ざ・ろっく!』以降、フォワード以外でも綿密なストーリーやかわいかったり優しいだけではいられない側面を描く作品が増えてきた昨今では逆に珍しいくらいに。

 

温かくて優しい世界が描かれる。
蒼山サグきんつば『すぱいしーでいず!』2巻(20223年、芳文社)90ページ

 そして、蒼山サグ先生のこれまでの作品だと『ロウきゅーぶ!』だとバスケの試合、『天使の3P!』だとバンド対決、と言ったちょっとした競争要素が物語のハイライトに据えられることが多かったのですが、本作では「島の夏祭りにすてら達がカレーの模擬店を出す」というのが最終的なゴールとなっており、競争要素などはあまりありません。

 

 もちろん美少女同士による手に汗握る真剣勝負からでしか得られない栄養素が確かにありますし、それをきららで描ききった名作もたくさんあります。しかし元々ライトノベル畑の蒼山サグ先生が「まんがタイムきららフォワード」で書く以上、蒼山サグ先生らしさを残しつつ、きららだからこそ書ける作品を書いてくださったことは本当に嬉しかったです。

 

 そしてストーリーを支えるきんつば先生の作画も「萌える」美少女というよりもほんわかとした優しい可愛らしさを感じさせる素晴らしい絵に仕上げてくださっていると思います。このきんつば先生の作画はもっと言えば、他のきらら作品と比較しても珍しいメインキャラクターの殆どが小学生の作品という特徴ともうまくマッチしていると思います*3

 一般的に人は、幼い少女らに優しい感情・慈しみの感情を抱くよう遺伝子にプログラムされているのではないでしょうか。きらら作品の主な主人公である女子中学生・女子高生よりも更に若いキャラクターらが主人公になっているからこそ、他のきらら作品よりも更に優しい作品に仕上げる必要がある。そんな作品の特色をおさえて全体の調和を作り出している作画になっていると思うのです。

 

5.  傍論 ~その他の魅力~

 前項ではストーリー・作画両面から『すぱいしーでいず!』が「きらららしさ」と言う観点で魅力的だという話をしました。その観点に加えてもう3点ほどこの作品の魅力をご紹介します。

 

①主人公・すてらの魅力と成長

 本作の主人公・すてらは家がお金持ちのお嬢様と言う設定がありながらも人見知りな所もあるのも相まってお嬢様特有の取っつきづらさなどはなく、最初から受け入れられやすいキャラクターになっていて、主人公を応援したくなるキャラクターになっていることもまた、本作の魅力です。

 そして一部の有識者は近年のきらら作品の主要な構成要素として「主人公の成長」に重点を置いていますが、本作における「すてらの成長」というのも見守っていて微笑ましいところがあります。すてらは最初、父親と別れて一人で伊豆大島に住むことになってしまったことが心細く伊豆大島に引っ越してくることに後ろ向きで、伊豆大島のことを「海の監獄」とすら例えています。

 

第1話、伊豆大島に一人で行くのが憂鬱なすてら(左側の白髪の少女)。希望に満ちているあい(右側の少女)と対照的に描かれているのも印象的。
蒼山サグきんつば『すぱいしーでいず!』1巻(2022年、芳文社)5ページ

 そのすてらのネガティブなイメージは伊豆大島で着いて間もなく出会ったあい・なつめ・こずえとの関わりによってすぐに払拭されるのですが、あいたちと設立した「カレー部」の活動を通じて、もともと怖がりで控えめだったすてらはより積極的に物事をできるように成長していきます

 その成長は「ゆっくりはじまる」ものかもしれません。しかし、のんびりとした伊豆大島の風土で、温かい人たちに見守られながらも1巻の最初と最後、そして3巻通じて着実に成長していくすてらの姿には読者はほっこりとした気持ちになります。そこもまた、本作の見逃せない魅力でしょう。

3巻第13話。伊豆大島に訪れたすてらのお母さんにすてらがご飯を振舞うシーン。伊豆大島に来る前は料理を全くしなかったすてらの変化・成長が端的に見えるシーンの1つ。
某ベーシストを連れてくな! ではないので要注意。
蒼山サグきんつば『すぱいしーでいず!』3巻(2023年、芳文社)19ページ

 

②「創作カレー」の要素も絡めながら描かれる聖地「伊豆大島

 更に聖地「伊豆大島」の描写もまた、「すぱいしーでいず!」の重要な魅力の1つです。3巻のあとがきで蒼山サグ先生が

 

リフレッシュ目的で伊豆諸島を旅行した際、大島のゆったりとした空気感にすっかり癒されてこの温かな世界で何か物語ができないかなと思ったのがそもそもの始まりでした。

(蒼山サグきんつば『すぱいしーでいず!』3巻(2023年、芳文社)159ページより引用)

 

と『すぱいしーでいず!』の誕生経緯を語っているだけあって、温泉や三原山などの観光名所が登場するなど、本作では伊豆大島が丁寧に描かれています。

 加えて、本作の大きな特徴である創作カレーと絡めて大島の魅力が描かれていることが本作ならではで、他の聖地を大切に扱った作品とも「一味」違うところでしょう。本作では各巻に伊豆大島らしさを盛り込んだ創作カレーが登場します。

 特に最終巻で島の夏祭りに出店するメニューとしてすてらたちが悩みに悩んだ末に辿り着いた伊豆大島らしさを盛り込んだ創作カレーがどのようなものなのか。それは、皆さんの目で確かめて頂けると嬉しいです。

1巻第4話で登場した「基本のインドカレー~大島風~」。伊豆大島の特産品である大葉が添えられているところがポイント。他にも多数の創作カレーが登場し、伊豆大島要素が盛り込まれているカレーも多数登場する。
蒼山サグきんつば『すぱいしーでいず!』1巻(2022年、芳文社)106ページ

 

6. 末語に代えて

 以上、簡単ではありますが私のイチオシ完結済みきらら作品の『すぱいしーでいず!』の魅力について語っていきました。

 本作は衝撃的な展開が連続するわけではありません。控えめで引っ越しに後ろ向きだった小学生の女の子が温かい友達に囲まれて少しずつ成長していく、王道のきららと言える作品です。でも、そのような王道のきらら作品でしか得られない栄養素がある。そしてそのような栄養が詰まったカレーに、更にカレー要素と伊豆要素というスパイスをひとつまみ。『すぱいしーでいず!』はそんな作品です。

 この微笑ましい、心温まる女子小学生の成長譚を読み終えた時。きっと皆さんもミニバスケットボールを題材にした某ライトノベルの台詞を心の中で呟くことになるでしょう。

「まったく、小学生は最高だぜ!!」と。

 

*1:1期はStudio Blanc.と共同制作。

*2:いうまでもなく、きらら作品、もっと言うと「まんがタイムきららフォワード」掲載作品には『がっこうぐらし!』や『球詠』などがあり、このイメージは実態を正確にとらえているものではなく、筆者個人の独りよがりな幻想ではあります。

*3:主人公が小学生の作品だと他にはなじみ『しょうこセンセイ!』など。この作については次の記事が詳しい。【完結済きらら作品紹介リレーブログ④ 】『しょうこセンセイ!』 - 京大きらら同好会 (hatenadiary.jp)