京大きらら同好会

京都大学きらら同好会(3代目)のブログです。

【「つむつき」完結記念リレーエッセイ】きらら男性キャラかっこよさTierS:橘公貞くん

言うまでもなく、全てのきらら読者は作中の男性キャラを愛している。

(書いた人:ミッ)

きらら作品には魅力的な男性キャラクターがたくさんいる。

きらら好きの人間ならば皆、『ごちうさ』のタカヒロさんに人生相談をしたいと思っているし、『アニマエール!』の猿渡暁音くんをかわいいなあと思っているし、『ブレンド・S』での秋夏帆にドギマギし、きらファンにほとんどの男性キャラが正式に参戦しないことに異議を唱えた(特に『夢喰いメリー』の夢路)。

今日は、きらら作品の魅力的な男性キャラを求めて今日も荒野を彷徨う皆様に、『紡ぐ乙女と大正の月』に登場するある御仁を紹介するためにこのリレーブログを執筆した。

 

『橘家のご次男 公貞くんだ』

✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨

(ちうね『紡ぐ乙女と大正の月』(2022年,芳文社)3巻,32p)

 

橘公貞くんがまともに登場したのは1921年クリスマス回、両国の川開き回、1922年クリスマス回くらいしかないのだが、非常に大きな存在感と魅力を隠し切ることができず、初登場回直後に開かれた原作ちうね先生のサイン会では彼のイラストを頼んだ読者が現れたほどだ。それが私だ。


きらら展名古屋のサイン会にて、ちうね先生に橘公貞くんのイラストを書いていただいた。

担当編集の方と一緒に大層驚かれていた。

 

今回は『紡ぐ乙女と大正の月』の読者や、きらら作品に登場する男性キャラを愛してやまない全てのきらら読者に向けて橘公貞くんを紹介し、その魅力に気づいていただく。

 

彼の魅力について

○かっこいい

鼻息荒く、肩をいからせて唯月をダンスに誘う他のキャラクターとの描き分けは残酷なほど。表情や立ち振る舞いには余裕があってスマート、ダンス時の姿勢もよく、フォーマルな燕尾服が似合い、紡は『こんなイケメン初めてみた…!芸能人みたい…』と評した。

このイラストにカラーがついたら拡大コピーして額縁に入れて飾るが...

(ちうね『紡ぐ乙女と大正の月』(2022年,芳文社)3巻,33p)

 

○相手の気分を察することができる

彼はいかなる時でも余裕を持っているため、ダンス中に相手を観察し、唯月の笑顔の奥に隠された憂いを察することができ、適切な程度の声かけをすることができる。

デリカシーの塊。

(ちうね『紡ぐ乙女と大正の月』(2022年,芳文社)3巻,33p)

 

○褒め上手

表情を崩さず、柔和な笑顔を保ったまま相手をたくさん、自然な流れで褒めることができる。『とても美しいお方だ』『流石お上手ですね』などの基本的な褒め言葉はもちろんだが、私は『美女は憂い顔も絵になるというが貴女は笑顔のほうがもっと素敵だ』という完璧なフレーズがスラスラと出てくることに感動した。なんなんだこの男は…

 

○正しい行いをすることができる

紡と唯月を狙った痴漢を撃退し、それだけでなく彼女たちを守る役割を申し出さえした。また、無礼な口をきいてしまった紡に対しても『いえいえそんな大層な人間ではないですよ』と謙遜した。ただの爽やかなイケメン描写として流してしまいがちだが時代背景を踏まえて考えると中身の美しさがより感じられる。旭風にいうと、「外見だけでなく内面も令息にふさわしい人」である。

 

○理解があり、婚約者相手でもプライバシーに配慮できる

紡と唯月のキスを覗いてしまった公貞は全てを理解し、配慮パワーに満ちた以下の行動をとった。

・唯月にとって不特定多数の男性とのダンスが負担であることを察知し、婚約者の立場を活かして彼女を連れ出した。

・唯月の、結婚に関する認識を聞き出した。その際繋いだ手を一旦離した。

・キスを覗いてしまったことを謝った。プライバシー尊重意識の証左である。

大正当時は、同性間の特別な愛情は一過性のものである、またはそうあるべきと捉えられがちだったが、公貞はそのようなスティグマに染まらず、結婚すること、男性と一緒になることが唯月にもたらす精神的な負荷を案じることができた。強固で徹底した人道尊重の意識がなければ不可能なものである(公貞から唯月への恋愛感情がない場合に限る。それは作中から明示的に読み取ることはできない)。このような人間に私もなりたい。

唯月を連れ出すシーン。スチルでしょ

(まんがタイムきららキャラット2023年11月号(2023年,芳文社)76p)

 

旭は唯月を「外見だけでなく内面も令嬢にふさわしい人」と評し惹かれるようになったが、もうそれと同じくらい最高の傑物である。スパダリがすぎる。逆につまらない。乙女ゲームには登場しないタイプだ。

 

…とここまで語ったが、私が彼に惹かれたのは上記のキャラ萌えチックな理由だけではない。彼に惹かれた理由を説明するには『紡ぐ乙女と大正の月』の話の展開を時系列的にふまえ、その中で彼が私にどう映ったかを説明する必要がある。

 

 

彼の作中での位置付け

『紡ぐ乙女と大正の月』の大きなクエスチョンの一つとして、「紡と唯月の関係が永続的なものか」というものがある。作中にも示されているように、エスの親密な関係は学生時代のみのもので、卒業や結婚でいずれ別れが来てしまう。

例えば、エス文化を描いた『乙女の港』においても、恋愛感情の描写は博愛精神の成長物語に”昇華”され、永続的な同性の1対1の関係は描かれない。

このように、その時代においても、作中世界においても一過性のものとして認識されていたエスだが、「人生を投げ捨てかねないくらい藤川さんを想っている」唯月、「大切な人が辛い思いをしているなら最後まで手を差し伸べる」「私は絶対にどこにも行かない」と誓う紡の関係は、この認識とは少し異質なものとなっている。

 

この紡と唯月の関係の永続性志向は、公貞が初登場した1921年クリスマス回時点では、唯月がそう願っていることを匂わせる描写はあったものの、明確に示されてはいなかった。それもあり、1921年クリスマス回は「紡と唯月の関係は永遠に続くのか」という不安定なクエスチョンの目の前に、

・家の問題/社会の目をどうするか

・生まれた時代が違うことをどうするか

などの問題/葛藤を改めて突きつけるものとなり、関係の永続性は絶望的に感じらた。

 

そんな絶望を与える回に、橘公貞が登場した。彼は上で述べたようにクリスマスの夜会のみで素晴らしい人物であることがわかり、2人の暗い未来しか想像できない私にとっての希望となった。彼ならば唯月の望みに理解を示し、自由を尊重してくれるに違いない、と思ったのだ。(あまりに辛すぎて彼に希望を抱かなければやっていられなかった、みたいなところはある。)

救世主のご尊顔
(ちうね『紡ぐ乙女と大正の月』(2022年,芳文社)3巻,32p)

紡の約束、唯月の告白などがあり、2人の永続性志向が明らかになった後も、公貞は私の中で輝き続けていた。彼ならば2人を応援してくれるはずだ、と。彼に惚れていた私は両国の川開き回の最後のコマでも不安になったりしなかったし、むしろ「理解者が増えた!」と喜んだ。

彼が信頼に足る人物であるという前提のもと見ると、安心感しかないシーン

(まんがタイムきららキャラット2023年6月号(2023年,芳文社)124p)

 

このように、私にとって橘公貞は、

「紡と唯月の関係が続いても続かなくても、未来が暗いものになってしまう」という、マイナス対マイナスの葛藤の状況

に現れた、

「紡と唯月の関係が続いても続かなくても、未来をより良いものに導いてくれる人物」

であった。

最終話での彼の立ち回りにも期待している。

 

最後に

以上、橘公貞くんのかっこいい点を列挙したのち、彼が救世主だと感じられた理由を説明した。

この記事を読んで、これまで橘公貞くんの描写を「ああ、例のイケメン当て馬ね」と流していた人は今一度彼の挙動を確かめ、悔い改めてほしい。

 

......というのは3割くらい冗談だ。"非常識"な紡との対比を楽しんでみるのも良いと思う。