京大きらら同好会

京都大学きらら同好会(3代目)のブログです。

【「つむつき」完結記念リレーエッセイ】『紡ぐ乙女と大正の月』第1話掲載の瞬間に立ち会った一読者としての思ひで

『紡ぐ乙女と大正の月』最終話まであと○日! 最後まで盛り上げていきますよ~!

                            

書いた人:湖柳小凪

 

オープニング ~このリレーエッセイができるまで~

 

 はじめまして、京都大学きらら同好会・研究生の小凪です。

 突然ですが皆さんは『紡ぐ乙女と大正の月』という作品について知ってますか? 知ってますよね⁉(圧)

 

 『紡ぐ乙女と大正の月』(以下「つむつき」と呼称)はちうね先生によって2019年11月号から『まんがタイムきららキャラット』上で連載されている漫画作品です。令和の時代から大正時代にタイムスリップしてしまった主人公・藤川紡が行く宛てのないところを助けてくれたお嬢様・末延唯月とともに女学校生活を送るようになるところから始まる、女の子同士の友情やそれ以上の関係性を描いた作品で、現在既刊は3巻まで発売されています。

 

 

 私たちの3代目京大きらら同好会は発足以来、「つむつき」に支えられて歩んできたといっても過言ではありませんでした。弊会には会長以下、この作品に対して深い愛情を持った会員が多く集い、数多くの関連するタテカンやお神輿を作成してきたほか、作者のちうね先生を学祭にお招きしてイベントを開催するに至るなど、「つむつき」は現在の弊会を語る上で外せない作品となっています。

 

 しかし、どのような物語にも終わりはくるもの。それは「つむつき」についても例外ではありませんでした。先日発売されたまんがタイムきららキャラット1月号上にて、近々完結を迎えることが発表となってしまいました。

 その発表によって弊会内部にも震撼が走りました。そして完結までにこれまでお世話になってきた作品に対して何か恩返しできることがないかを考えた際、やっぱり会を挙げて最後までコンテンツを盛り上げるべきではないか、という結論に至りました。

 このリレーエッセイもその一環です。本日から有志の会員が数日おきにこの作品への愛情やこの作品との思い出を綴っていきたいと思います。

 「つむつき」がすでに大好きな人もこのブログで「つむつき」を初めて知った人も、このリレーエッセイがきっかけで完結に向けて盛り上がって、みんなで完結を迎えられる一助となれば、そして『紡ぐ乙女と大正の月』という作品と作者のちうね先生への感謝の気持ちが少しでも伝わるものとなれば幸いです。

 

 ……能書きが長くなってしまいましたね。次からいよいよ本編です。

 

 

『紡ぐ乙女と大正の月』第1話掲載の瞬間に立ち会った一読者の思ひで

 大学に入ってから初めての試験期間を乗り切った、翌日の昼下がり。

 夏休みに入り人がまばらになった校舎で、私は人生で初めて手にとったまんがタイムきららキャラットの最初の1ページを、ゆっくりとめくっていた。

 そしてその2019年9月号は偶然にも『紡ぐ乙女と大正の月』ゲスト第1回が掲載された号だった。つまり私は、(少し大袈裟だが)偶然にも人生ではじめて買ったきららで、偶然にも「つむつき」の第1話が掲載された瞬間に立ち会ったのである。

まんがタイムきららキャラット2019年9月号 表紙。この号で「つむつき」は初めて掲載された。

 

○私と「きらら」、私と「つむつき」

 私が「きらら」を知ったのは2018年の冬だった。『スロウスタート』に魅せられた私は次のクールに放送された『こみっくがーるず』、そして『はるかなレシーブ』と続けざまにきららアニメを見ていった。2018年秋クールの『アニマエール!』は受験が直前に迫っていたこともありリアタイ視聴は断念したものの、合格してからは受験期に見ていなかった反動もあって、『ご注文はうさぎですか?』『NEW GAME!』『がっこうぐらし!』と言った有名どころの過去作きららアニメを呼吸をするように見ていった。

 

 そして大学1年の7月、『まちカドまぞく』が放送がはじまってからは私の中でのきらら熱は最高潮に高まっていた。そんな中で私は人生で初めて「まんがタイムきらら」、それも当時アニメがやっていた『まちカドまぞく』が掲載されていたキャラットを買うに至った。大学入学前は漫画全般を全く読んだことがない漫画初心者の私にとって、このことはある種の初体験で特別な意味を持っていた。そんなはじめての体験の中で私の前に現れた「つむつき」第1話のインパクトは、今でもよく憶えている。

 

 その頃の私はきらら系の中でも特にコミュニケーションが苦手なキャラが成長していく作品やしっかりとしたストーリーがある作品を好んでいた。前者は『スロウスタート』『こみっくがーるず』、後者は『がっこうぐらし!』『まちカドまぞく』など。

そんな私の性癖に「つむつき」はまさにドンピシャに刺さった。いきなり女子高生が斬りかかられるところから始まるインパクト、タイムトラベルと言ったしっかりとした話の軸、そして私に対してのダメ押しとでも言うかのようにトッピングされる主人公・藤川紡のぼっち&高校デビュー設定*1

 まさに私の、私のための、ちうね先生によるザ・きらら、ラーメンで言うところの固め濃いめ脂マシマシである(何を言っているか訳わからないって? 言ってる私自身も自分でも何を言ってるのかよくわかっていない)。ストーリーがしっかりある作品だからこそ初回2話同時掲載でたっぷりと尺を使って描かれた「つむつき」に、私はすっかり魅了されてしまった。

 

 このような素晴らしい作品か連載していないなんておかしい、連載しないなんて全世界における損失だ、ぜひ続きが読みたい。そう思った私は気づいたら読者アンケートを書き始めていた(ちなみに余談だが、この際ちゃっかり表紙絵の図書カードが当選してたりする)。

 

○「つむつき」1話・2話同時掲載の持つ意味

 と、ここまで「つむつき」における(ある意味ステレオタイプ的なきららイメージとはズレる)ストーリー性の高さについて主に絶賛してきたが、「つむつき」1話・2話でうまかったのはあくまで萌え日常4コマというきらららしさを残し、活用しながらもメリハリつけるところは緩急のあるストーリーを実現した、いわば「きらららしさ」*2と「高いストーリー性」の両立した点だろう。

 前述した通り「つむつき」1話は令和の女子高生が大正時代の警官に真剣を突きつけられるという衝撃的なページから始まる。そして次のページからも丁寧な時代考証に基づいた、「高校デビューを頑張った女の子が大正時代にタイムトラベルしてしまった」、という非日常が展開される。そのストーリーだけだと萌えキャラによるストーリー漫画となり、私は大好物だが、きらららしいかと言われると首を傾げる人もいたのではないか。

ちうね『紡ぐ乙女と大正の月』(2020年,芳文社)1巻1話より。

 しかし「つむつき」は初回2話掲載とすることで、1話の緊迫したストーリーの部分で終わらせず、大正時代における生活が紡の「日常」になる入り口ところまで、初回掲載時に、主に2話で描いている。この第2話ではいきなりタイムトラベルしてしまったことで緊迫感が強かった1話とは一転、末延唯月に時折いじられながらも、紡がこの時代における「日常」の拠り所を確立していくところが描かれる。

 

 そんな唯月と紡のやりとりは微笑ましく、和やかで癒されるものになっている(と、私は感じた)。このように女の子のやりとりに癒される、微笑ましさを感じる、というのはまさに海藍トリコロ』、湖西昌『かみさまのいうとおり!』以来、きららが築き上げてきたきらら作品のDNA・きらららしさとでもいうべきものを受け継いだ正統派きららと言えるのではないか

 

 これがもし「つむつき」初回が1話しか掲載しなかったらどうだっただろう。尻切れ蜻蛉で終わった感も去ることながら、「つむつき」をきらら作品として見た時、少し物足りなさを感じてしまったかもしれない。もしくは丁寧に大正時代の社会を描いたパート(大正時代のお金周りのエピソードなど)を削って1話で落ち着くところまで詰め込んでしまう、という手も考えられるが、それはそれで丁寧な時代考証という本作最大の魅力の一つを殺してしまうことになる。つまるところ、「つむつき」は初回2話掲載だったからこそ、この作品独自のストーリー性ときらららしさをどちらも魅力的に描け、最初から私も含めたきららファンの心を掴んだところがあるかもしれない。

 

○4コマの使い方が巧みな点

 また、きららが萌え日常「4コマ」である、という特色を最大限生かしたシーンが1話からあることも忘れてはならない。例えばこのコマ。

ちうね『紡ぐ乙女と大正の月』(2020年,芳文社)1巻1話より。

 

 これは紡の全身を2コマに分割して細かく描くことによって周囲の大正時代の洋装との違いを比較して分かりやすく読者に伝える、という意図ももちろんあっただろう。

 

 しかし、それに加えてスカートがドアップで、しかもコマという枠のうちのど真ん中に収められている。これによって全身が大きな1コマに描かれている場合よりも読者の視線が紡の(大正時代にしては短い)スカートに向くように計算されており、後の紡が「破廉恥」という風評被害に合うシーンにより読書が納得できるように描かれているのである。

 

 つまり、4コマのギミックもうまく使った「つむつき」は、4コマ漫画という形態と切っても切れない縁のあるきらら作品に最初から順応した作品、ゲスト掲載当初から「きららの中のきらら作品」だった……とも言えなくもない。

ちうね『紡ぐ乙女と大正の月』(2020年,芳文社)1巻1話より。スカートに注目がいくようなコマを先に配置していることで、このコマの「破廉恥行為」の説得力が増している、ともとれる。

 

○その後の私と「つむつき」

 そして私は当時、続く第3話の掲載された10月号も購入していた。第3話では物語の舞台が学校に広がり、より本格的に大正時代における紡の「日常」が始まるとともに、しばしばきらら作品でみられる百合の波動も他の作品以上に縦軸のストーリー性を感じさせる形で描かれるようになっていく。そんな中で「つむつき」の連載決定の告知を半ば当然の結果と思い、半ば安堵して見ていたこともまた、今でも憶えている。

 

 それから4年と8か月ほど。あの時はじめてきららを手にした私は某ボランティアサークルで運営代を経験し、引退し、ゼミに入り、卒論を書き上げ、社会人になった。

 

 そんな私は恥ずかしながらあの3話以来、「つむつき」から大分距離を置いてきてしまった。第4話が掲載されたキャラット11月号を買いそびれたことをきっかけに月刊誌で追うことを諦め、単行本が出たときには既に就活の本格化で時間面・金銭面での理由からなかなか単行本を揃えて読むのは難しくなっていた。その間も知り合いに「つむつき」のサイン入りタペストリーを見せられたり、某百合サークルで熱烈に布教されたり*3「つむつき」のタテカンが京大に襲来したりと、「つむつき」を定期的に目にする機会があったにも関わらず、である。

 

 そんな私は本来、熱心な「つむつき」ファンの皆様に末席を連ねて「つむつき」について語る資格などない。しかし、こんな私だけれども、私の中で「つむつき」は初めて買ったきらら・初めて買った漫画誌の中に掲載されていたたった一つの印象深い作品で、あの作品が今の私のきらら観を築いてくれた部分があることは間違いない。そんな大切な作品の完結に際して、「つむつき」と私の思い出を振り返る機会をくださった京大きらら同好会の皆様には感謝してもしきれない。そして。

 

 完結直前に際してこれまで追いつこう追いつこうと思っても追いつけていなかった「つむつき」に、今度こそ追いついて最終回を迎えたいと思っている。それはもう、暫く会っていなかった友人の近況報告を聞くような気持で。

 そんな、5年間会ってなかった友人の近況報告を受けた気分で「つむつき」を一気読みしたオタクの話も何日後にブログにさせてもらえる予定だ。その時にはまたお付き合いいただけると幸いである。

 

 

エンディング ~次回予告に代えて~

 と、いうことで俄かオタクの昔話はここまで! 次回は満を満たしての会長の登場です(いや、会長を差し置いて俄かがトップバッターで良かったのかって話ではあるのですが……)。 

※諸事情により第2回は会長と同じくらいつむつき愛の深い会員が先の投稿となりました。

本物の「つむつき」オタクの贈る次回も楽しんでいただけたら幸いです。

 

 

*1:「つむつき」に見られる主人公のコミュ障設定についてはくら鳥「きらら主人公から学ぶ、ぼっち回避術!」(2023年,『京雲母』vol.1)などの先行研究に譲る。

*2:ここで言うきらららしさとは湖柳小凪「月刊誌『まんがタイムきらら』20年史における百合的需要への応答の変化」(2023年,『Liliology 』vol.3)で整理したように「女の子同士のいちゃいちゃや関係性が描かれている」「和む」といった要素を「きらららしさ」と暫定的にしています。あくまで小凪の個人的な印象・イメージですので異論は沢山あると思います。会としての統一見解はまだなく、内部から批判もよくあるので話半分程度で見ていただけますと幸いです

*3:布教された内容がこちらにまとまってますのでよろしければどうぞ。「私達の選んだ1コマ」大賞2021(「私達の選んだ1コマ」大賞2021② - 京都大学百合文化研究会の研究ノート (hatenablog.com)